入札方式とは不動産の売却方法の1つで、オークション形式で行われます。これまで入札方式による不動産売却は、地方自治体や企業間でのやり取りが主流でした。
しかし近年では、個人が不動産会社に仲介を依頼した上で入札を行うケースが増えています。今回は不動産売却における入札方式について、メリット・デメリットや流れ、向いている不動産の特徴などを解説します。
目次
不動産売却の「入札方式」とは
入札方式とは、1つの不動産に対して複数の購入希望者が名乗り出て、最終的に最も高い金額を提示した人が買主になるオークション形式の売却方法です。
これまで、入札方式は裁判所や地方自治体などが差し押さえた不動産、または企業が所有する大規模な土地を売却する際に多く用いられてきました。
しかし「入札方式は不動産が高く売れやすい」というメリットに着目する人が増え、近年では個人が持つ不動産の売却時にも用いられるようになっています。
一般的な不動産売却方法と入札方式の違い
不動産会社を通して買い手を探す一般的な売却方法は「相対(あいたい)方式」と呼ばれ、入札方式とは売却価格と買主の決め方が異なります。どの売却方法が良いのか判断できるよう、相対方式と入札方式の違いを押さえておきましょう。
売却価格の決め方
不動産の売り出し価格を売り手が決める点は、相対方式と入札方式で共通です。両者で異なるのは、買い手が見つかった際の最終的な売却価格です。
<相対方式>
相対方式では、売り出し価格を見た購入希望者が名乗り出ることで取引の交渉が始まります。値下げ交渉をされた、もしくは購入希望者が現れなかった場合は値下げを検討する必要があります。
つまり相対方式の売却価格は、基本的に売り出し価格が最大ということです。値下げをすることはあっても、売却価格が売り出し価格を超えるケースはほとんどありません。
<入札方式>
入札方式で不動産を売りに出すケースでは、相場を参考にした上で「最低落札価格」を設定します。購入希望者が現れるたびに入札額が更新されていくため、人気のある不動産であれば希望の売却価格以上の高値がつく可能性があります。
ただし、最低落札価格の設定は慎重に行わなくてはいけません。特に、希望の売却価格と最低落札価格の乖離には注意が必要です。
例えば「3,000万円で売りたい」と思っているのに1,000万円で売りに出すと、最低落札価格に近い金額で入札が進み、最終的に1,500万円や2,000万円など、希望額より大幅に低い金額で落札される恐れがあります。
買主の決め方
相対方式の不動産売却では、買取を希望したタイミングが早い購入希望者と先着順で交渉を始め、売却金額や契約内容などで双方が同意すると売買契約が締結されます。同意が得られなかった場合は交渉決裂となり、次の購入希望者が現れるのを待つ流れです。
一方、入札方式では「競り上がり方式」または「ポスティング方式」によって買主が決まります。
種類 | 概要 |
---|---|
競り上がり方式 | ・同じ人が何度でも入札できる ・入札のたびに最高入札価格が更新される |
ポスティング方式 | ・入札は1人1回まで ・最低落札価格以上の価格が提示される |
競り上がり方式とポスティング方式では入札の流れが異なりますが、最高額で入札した人が落札者になる点は共通しています。
不動産売却における入札方式の種類
不動産売却における入札方式には複数の種類があります。主なものとして「一般競争入札」と「指名競争入札」について紹介します。
1. 一般競争入札
入札に参加できる条件を告知し、不特定多数の入札参加者を募る方法です。金額やその他の要素など、最も良い条件を提示した人が落札者になります。
一般競争入札は参加資格をあらかじめ提示するため公平性が高く、入札方式の不動産売却において多く用いられています。
2. 指名競争入札
参加条件を満たしている人だけが参加できる入札方式です。一般競争入札と同じく、最も良い条件を提示した人が落札者になります。
指名競争入札は条件を満たした特定の業者だけを対象とすることで、安心感のある取引を進められるのがメリットです。
不動産を入札方式で売却する3つのメリット
入札方式による不動産売却には、価格面や契約の成功率、早期売却といったメリットがあります。
不動産の売却方法を検討する際は、メリット・デメリットを把握することが大切です。入札方式のメリットを具体的に紹介します。
1. 希望価格以上で売却できる可能性がある
入札方式で複数の購入希望者、つまり多くの入札者が集まると、市場価格や希望の売却価格より高い値段での売却が期待できます。
特に、競り上がり方式だと互いの入札価格が見えるため、競争心が生まれやすい傾向にあります。好条件の不動産は、想定以上の高値で売却できるチャンスです。
また、入札方式では落札時に売却価格が確定します。相対方式と違って値下げ交渉がないことも、高値で売却しやすい理由の1つです。
2. 売買契約の成立確率が高い
参加条件にもよりますが、入札の参加者は不動産会社や企業といった法人が多いため、入札方式では売買契約の成立確率が高い傾向にあります。
相対方式の場合は、購入希望者の多くが一般の個人です。購入を名乗り出ても住宅ローンの審査に通過できず、売買契約が成立しないこともあります。
その点、入札方式で法人が相手なら、ローン審査を理由にしたキャンセルの心配はありません。
3. 不動産の早期売却が叶いやすい
入札方式は、相対方式よりも短期間での売却を目指せます。
相対方式では、買い手との交渉が決裂すると次の購入希望者が現れるのを待つ必要があるため、売却完了まで時間がかかりやすい傾向にあります。
一方、入札方式では落札後すぐに売買契約の締結に進むため、売却までの流れがスムーズです。また、入札期間が決まっているのも、入札方式が短期間かつ効率的に売却しやすい理由の1つです。
不動産を入札方式で売却する3つのデメリット
入札方式による不動産売却のデメリットは、価格面での理想と現実のギャップ、取引の未成立、キャンセル不可の3点です。売却予定の不動産が入札方式に適していそうか、デメリットからも判断していきましょう。
1. 必ずしも高値で売却できるとは限らない
入札方式では想定価格より高く落札される可能性がある一方で、状況によっては安い価格がつくことも考えられます。最悪の場合、入札者が1人だと最低落札価格で落札されてしまうことも。
入札方式を用いて不動産を高値で売却するには、なるべく多くの入札者を集めることが大事です。入札者の集まり具合は入札条件や価格設定などによって変わるので、入札開始前に不動産会社とよく相談しておきましょう。
2. 入札者が現れないこともある
いざ入札が始まっても入札者が現れるとは限りません。入札期間の終了までに入札者が1人も現れないと中止になり、売却活動は振り出しに戻ります。
その場合、再び入札にかけることは可能です。しかし、需要がない不動産だと次も入札者が現れない、もしくは少数しか集まらない恐れがあります。
入札方式は早期売却がメリットですが、場合によっては相対方式より時間がかかってしまうケースもあるのです。
3. 落札後のキャンセルがしづらい
入札方式では、買い手・売り手ともに落札に向けて話を進めていくためキャンセルがしづらく、市場価格や希望の売却価格より安値で落札されると損をするので注意が必要です。
納得のいく不動産売却を実現するためには、入札条件や最低落札価格などを事前にしっかり決めておくことが大切です。入札方式について迷ったら、不動産会社に相談すると良いでしょう。
不動産を入札方式で売却する流れ
不動産を入札方式で売却する際の、一般的な流れは次の通りです。
1. 不動産の査定・市場調査を行う
2. 入札の仲介を依頼する不動産会社を選ぶ
3. 不動産会社と媒介契約を結ぶ
4. 入札の準備を行う
5. 不動産会社が入札を行う
6. 落札者と不動産の売買契約を結ぶ
7. 入金後、不動産を引き渡す
上記ステップごとに流れを解説していきます。
1. 不動産の査定・市場調査を行う
入札方式で不動産を売却する際は、最低落札価格を決める必要があります。適正な価格設定ができるよう、まずは売る予定の不動産の査定や、市場調査を行いましょう。不動産の査定や市場調査は不動産会社に依頼すると確実です。
2. 入札の仲介を依頼する不動産会社を選ぶ
入札方式での不動産売却は、不動産会社に入札の幹事を依頼するのが一般的です。幹事は入札の仲介役を担い、売却活動の成功を大きく左右する要素のため、慎重に選定する必要があります。
不動産の査定や市場調査を依頼した不動産会社に依頼すると、話がスムーズに進みやすいでしょう。ただし、入札方式に対応していない不動産会社もあります。
3. 不動産会社と媒介契約を結ぶ
入札の幹事を依頼する不動産会社が決まったら、媒介契約を結びます。媒介契約とは、不動産の仲介を依頼する契約のこと。入札方式に限らず仲介方式でも締結し、売買契約の成立時に仲介手数料が発生します。
信頼できる不動産会社か、契約内容に問題はないか、媒介契約を結ぶ前にしっかりと確認しておきましょう。
▼内部リンク:一般媒介契約とは
4. 入札の準備を行う
媒介契約を結んだら、入札の方針や条件、最低落札価格、スケジュールなどを不動産会社と相談しながら決めていきます。
特に大事なのは最低落札価格です。入札者が集まりやすく、かつ自身が損をしない価格設定が求められます。自分だけで決めるのではなく、不動産会社にアドバイスをもらいつつ適正な価格を設定しましょう。
5. 不動産会社が入札を行う
準備が整ったら不動産会社が入札を行い、参加者を募ります。先述したように、1人でも入札者が現れれば入札は成立し、最高額をつけた人が落札者になります。
入札者が1人も現れなかった場合は入札が流れるので、再び入札を行うか、その他の売却方法に切り替えるか選択しましょう。
6. 落札者と不動産の売買契約を結ぶ
入札の成立後は落札者と交渉を進め、買い手・売り手の双方が同意した上で不動産の売買契約を結びます。
売買契約の締結後は、基本的に内容の変更・解除は認められません。不動産会社が用意してくれる契約書には以下のような項目が記載されているので、締結前にしっかりと目を通しておきましょう。
・売却価格
・売却代金の支払い時期
・決済方法
・引き渡しのスケジュール
・契約解除の条件
・契約不適合責任
・特約事項 など
7. 入金後、不動産を引き渡す
売買契約を結んだ後は、指定日に買い手が売却代金の支払いを、売り手が不動産の引き渡しを行います。
物件の引き渡し時には名義変更のため、所有権の移転登記をする必要があります。この手続きには専門知識が必要なので、司法書士にお金を払って代行してもらうのが一般的です。
なお、住宅ローンが残った状態で不動産を売却し、売却代金で一括返済をする場合は、この段階で行います。
入札方式による売却が向いている不動産とは
入札方式による不動産売却は、戸建てやマンションといった建物よりも土地に向いています。入札方式で高く売れやすい土地の特徴を紹介します。
広い土地
広い土地を所有している場合は、複数の企業からの入札に期待ができます。戸建て住宅を始め、マンションやアパート、工場、倉庫の建設など、多くの用途があるからです。
活用できそうな土地を探している企業は多く存在します。郊外の土地や山林、農地など、高値がつきにくい条件だったとしても、敷地面積が広ければ企業からの入札が集まり、想定以上の高値で落札される可能性があります。
大規模開発が予定されている土地
新駅や公園、公共施設の新設など、大規模開発が予定されている土地を所有していると、地方自治体や企業によって高値で落札される可能性があります。
大規模開発に関する情報も、不動産会社なら知っていることがあるので、土地の売却を考えた際は一度相談してみると良いでしょう。
入札方式の不動産売却で失敗を避ける3つのコツ
ここまで見てきたように、入札方式による不動産売却にはメリットだけでなくデメリットもあります。納得のいく売却を実現するには準備の充実度が重要です。失敗を避けるために実践したい3つのコツを紹介します。
1. 売り出し価格の設定を慎重に行う
先述したように、入札方式を選んだとしても必ずしも高値で売却できるとは限りません。売り出し価格(最低落札価格)が高すぎると入札者が集まらず、安すぎると損して売ることになるため、入札方式では売り出し価格の設定が大切です。
価格設定の際は信頼できる不動産会社に査定や市場調査を依頼し、慎重に進めましょう。
2. 不動産の一括査定サイトを利用する
不動産の査定を依頼するため、複数の不動産会社に連絡するのは労力がかかります。複数の不動産会社に査定を依頼したい、時間をかけたくないと考える人には、一括査定サイトの利用がおすすめです。
フォームに簡単な物件情報を入力するだけで、一括査定サイトが提携している複数の不動産会社に査定を依頼できます。無料で利用できるだけでなく、査定価格や条件などを比較できるので、幹事を依頼する不動産会社選びにも役立つでしょう。
3. 信頼できる不動産会社を選ぶ
入札方式での不動産売却は独自のノウハウが必要です。幹事を依頼する不動産会社を選ぶ際は、入札方式での売却実績に注目しましょう。
また売却方式に関わらず、不動産会社を選ぶ際は信頼性の高さも重要です。売却実績だけでなく、営業担当者の対応や取引業者の番号なども確認すると、より信頼できる不動産会社を見つけられるでしょう。
信頼できる不動産会社の選び方は以下の記事で詳しく紹介しています。
▼内部リンク:不動産会社 選び方 売却
住宅地や戸建て・マンションは入札方式以外で売却する方法も
所有している不動産が一般的な住宅地や戸建て、マンションの場合は用途が限られるため、入札方式だと高値で売却できない恐れがあります。
そのような場合は、入札方式ではなく仲介や買取方式での売却も一案です。仲介や買取方式とはどんな売却方法なのか、概要を解説します。
「仲介」での売却方法
仲介方式とは、買い手と売り手の間に不動産会社が入り、不動産の売買活動を進める方法です。買い手は主に個人で、相場通りの価格で売却できる可能性があります。
しかし、仲介方式では不動産を売り出してから売買契約を結ぶまでにかかる期間が長い傾向にあります。
<仲介方式が向いている人の一例>
・できるだけ高く売りたい
・売却を急いでいない
・人気になる物件を保有している
「買取方式」での売却方法
買取方式は、不動産会社に不動産を直接買い取ってもらう方法です。不動産会社は不動産の再販を想定して買い取るため、売却価格が仲介方式より安くなる傾向にあります。
しかし、買取方式では仲介手数料が発生せず、売却完了までスピーディに進みます。
<買取方式が向いている人の一例>
・早く売却、現金化したい
・売却を周囲に知られたくない
・仲介で買い手が見つからない物件を保有している
不動産売買の「仲介」と「買取」の違いとは?メリットやデメリットもチェック
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入札方式について理解した上で、納得のいく不動産売却を
オークション形式で行われる不動産の入札方式は、想定よりも高値がつきやすい売却方法です。しかし、最低落札価格の設定が難しい、入札者が現れないと流れてしまうといったデメリットもあるため、内容を理解した上で売却活動に進むことが大切です。
一般的に入札方式には不向きと言われる戸建てやマンションの売却を考えている人は、他の売却方法も検討してみてはいかがでしょうか。不動産売却に悩んだときは、不動産会社に相談してみましょう。
不動産所有や不動産売却についてのご不安などお聞かせください!
1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。