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事故物件の損害賠償は遺族に請求できる?可能なケースと相場を解説

2024.05.19

マンションやアパートといった賃貸物件を保有している場合、入居者の死によって事故物件化するリスクがあります。その場合、遺族に対して損害賠償を請求できるのか知りたいところ。

本記事では事故物件の定義を始め、遺族への損害賠償請求の可否や相場、事故物件の売却について解説します。

そもそも「事故物件」とは

事故物件とは、建物内で人が亡くなった不動産を指します。

これまで、“事故物件”の定義は曖昧でした。人が亡くなった物件は心理的瑕疵(かし)として、宅建業者から買主・借主に告知する必要があったものの、その判断は業者によってまちまちだったのです。

過去に物件内で人が亡くなっている事実は、不動産の売買・賃貸借契約の可否を大きく左右します。しかし、「人の死」という大きな出来事を告知するか否かの判断基準が曖昧だったことで、以下のような問題が生じていました。

・後から知った買主・借主が訴えを起こす
・事故物件化を恐れたオーナーが高齢者と賃貸借契約を結ばない

不動産の円滑な流通、そして安心できる取引実現のため、国土交通省は2021年に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を制定しています。

その中で、事故物件は以下に当てはまる物件と定義付けされました。

・自然死、または不慮の死以外で亡くなった場合
・特殊清掃や大規模リフォームが発生した場合

これまでは自然死や不慮な死でも事故物件として扱われる場合もありましたが、現在では除外されています。ただし、自然死や不慮な死であっても、発見が遅くなって特殊清掃が必要になった場合は事故物件としてみなされます。

事故物件の種類と4つの瑕疵|心理的・物理的・法律的・環境的

【状況別】事故物件の損害賠償は遺族に請求できる?

所有する賃貸物件が事故物件になった場合、状況によっては遺族に損害賠償を請求できます。判断基準は死因で、基本的には「入居者の死に故意・過失が認められるか」という点が重要です。どのようなケースで損害賠償を請求できるのか、状況別に解説していきます。

自殺:遺族に損害賠償を請求できる

自殺は本人の意思(故意)によって行われるため、その死によって貸主に生じた損害の賠償義務が相続人である遺族に発生します。具体的には、「家賃を値下げせざるを得なかったことによる損害」「原状回復費用」の2つを遺族へ請求することが可能です。

<家賃の値下げによる損害賠償>
国土交通省の「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン(※)」では、自殺や他殺が発生した場合、3年間は借主への告知義務が発生すると定められています。

つまり、自殺が起こった不動産は事故物件になる、ということです。事故物件を好んで住む人は少ないため、3年間は家賃を値下げした状態で貸しに出すでしょう。また、値下げしたとしても借主が見つかるとは限りません。

この場合、事故物件化によって減った家賃収入を、遺族に損害賠償として請求できます。

<原状回復費用>
通常、経年劣化による原状回復費用は貸主が負担します。しかし、入居者の自殺によって室内が汚損された場合は、特殊清掃などにかかった費用を原状回復費用として遺族に請求できます。

※参照:国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」

他殺:遺族への損害賠償請求はできない

他殺は本人の意思ではなく入居者の故意・過失はないため、物件が損害を受けたとしても遺族への損害賠償はできません。特殊清掃を始めとする原状回復の費用が発生した場合、大家が負担する必要があります。

さらに、他殺が起こるとニュースで報じられることにより、物件の資産価値が大幅に下がることも考えられます。これらのことから、自殺よりも他殺の方が大家にかかる負担は大きいでしょう。

ただし他殺の場合は、犯人に以下のような損害賠償を請求できます。

・逸失利益(本来入るはずだった家賃収入など)
・原状回復費用(特殊清掃にかかる費用など)

孤独死・病死:遺族への損害賠償請求は基本的にできない

他殺と同じく、孤独死や病死も本人に過失はないので、遺族に損害賠償を請求することはできません。

国土交通省の「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」にも、老衰や病死といった自然死は心理的瑕疵に該当しないと記されています。

ただし、遺体の発見が遅れて特殊清掃や大規模なリフォームが必要になった場合は例外です。借主の賃貸借契約に基づく原状回復義務の内容として、遺体周辺の作業に関する費用を遺族、または連帯保証人に請求できるケースもあります。

事故物件の損害賠償は遺族の誰に請求する?

借主が死亡しても賃貸借契約は終了せず、相続人に引き継がれます。基本的に、事故物件の損害賠償は相続人に請求できますが、状況によっては請求できないことも。入居者の死後、相続人に損害賠償を請求できるケースを解説します。

ケース1. 相続人が複数いる

相続人が複数いる場合、大家は損害賠償請求が可能です。この場合の相続人の損害賠償債務「不可分債務」とされます。不可分債務とは、債務者が複数人いる場合でも、分割での支払いが認められない債務を意味します。

相続人は複数人でお金を出し合うことは可能ですが、大家には一括で支払う必要があります。大家が相続人に対して損害賠償請求をする際は、誰か1人に対して行うことになるでしょう。

ケース2. 相続人が相続を放棄した

相続人が相続放棄をした場合は、大家から損害賠償請求をすることはできません。

相続放棄とは、故人の資産や債務の相続を放棄すること。放棄を選択する場合は、相続開始を知ってから3ヵ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申述をする必要があります。

相続放棄が行われると相続人、つまり損害賠償請求をする相手がいなくなるため、逸失利益や原状回復にかかった費用などは大家が負担しなくてはいけません。

ただし、相続人が賃貸借契約の連帯保証人になっている場合は例外です。相続放棄を行っても連帯保証人としての義務は残るため、その人に対して損害賠償を請求できます。

ケース3. 相続人がいない

もともと相続人や連帯保証人がいない、もしくは相続放棄をされた場合は、相続財産清算人(相続財産管理人)に損害賠償を請求することも可能です。

相続財産清算人とは、故人の財産を相続人に代わって適切に管理・処分する人物のことで、家庭裁判所によって選任されます。

選任後は損害賠償請求だけではなく、賃貸借契約の終了可否や残置物の撤去、未回収の家賃といった問題のやり取りも相続財産清算人と行います。

なお、相続財産清算人の選任には費用と時間がかかります。借主にある程度の資産がないと、選任や手続きにかかる費用と、事故物件の損害賠償金額が見合わない、もしくは全額の回収が難しい可能性もある点には注意が必要です。

事故物件の損害賠償の内容・相場

事故物件で遺族に請求できる費用は、主に「逸失利益」と「原状回復費用」の2点です。損害賠償の内容と、相場の考え方を解説します。

逸失利益

逸失利益とは、事故がなければ得られたはずだった利益を指します。事故物件においては、主に以下のような損失分を相続人や連帯保証人に請求できます。

・減額した分の家賃
・空室期間の損失分
・他の入居者の退去による損失分

<相場の考え方>
逸失利益は「事故物件にならなければ、大家が得られるはずだった利益」を基に算出されます。具体的には、本来の家賃と減額分の差額や、空室期間の長さなどが基準となります。

なお、逸失利益はずっと請求できるわけではありません。事故物件の告知義務の目安である、3年間程度の減額分が妥当なラインと考えられるでしょう。

原状回復費用

原状回復とは、自殺や孤独死・病死などによって損傷した室内を、元の状態に戻すことです。事故物件においては、特殊清掃にかかる費用や設備の交換費用を原状回復費用として請求できます。

<相場の考え方>
原状回復費用として請求できる範囲は、民法621条によって定められています。

(賃借人の原状回復義務)
第六百二十一条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

※引用元:e-Gov法令検索「民法第621条」

人が室内で亡くなったからといって、すべての費用を請求できるわけではなく、あくまでも入居者の過失によって損傷した部分のみが対象です。

日本少額短期保険協会の孤独死対策委員会が発表した「第7回孤独死現状レポート(※)」によると、原状回復費用の平均損害額は38万1,111円で、最小損害額は5,200円、最大損害額は454万6,840円とのことです。

※参照:日本少額短期保険協会「第7回孤独死現状レポート」

【Q&A】事故物件に関するよくある疑問

保有している物件が事故物件化すると、損害賠償以外の問題も出てきます。よくあるのが賃料の未払いと、亡くなった人の残留物についてです。どのように対応すべきか、そして事故物件のリスクを軽減するにはどうすれば良いか解説します。

未払いの賃料がある場合は?

未払いの家賃がある場合は、損害賠償と同じく相続人、または連帯保証人に請求できます。請求できるのは、賃貸物件が完全に明け渡されるまでの家賃です。

なお相続人が相続放棄をすると、未払いの家賃を請求することはできません。この場合は損害賠償請求と同じく、相続財産清算人を選任する方法があります。

亡くなった人の荷物が残っている場合は?

亡くなった入居者の荷物の所有権は、貸主ではなく相続人にあります。そのため入居者の死後、荷物が室内に放置されていても勝手に処分することは認められていません。相続人に黙って大家が処分すると、損害賠償を請求される可能性もあるので、扱いには注意が必要です。

入居者の荷物が残っている場合は、まず相続人に処分を依頼しましょう。このとき、相続人から同意を得られれば大家が処分しても問題ありません。

相続人と連絡が取れない場合は、相続人に対して明渡訴訟を行い、その判決で強制執行を裁判所に申し立てるといった手順に沿って荷物を運び出す必要があります。

事故物件のリスクを軽減するには?

先述したように、死因が病死・孤独死・不慮の事故の場合は、損害賠償請求は認められないことがほとんどです。いざというときに備えて、大家さん向けの「孤独死保険」に加入しておくと安心でしょう。

孤独死保険は、入居者の自殺や孤独死が起こった場合の原状回復費用や、逸失利益などを補償してくれる保険です。保険料は発生しますが、遺族に損害賠償を請求できない、費用を回収できないといったリスクを軽減できます。

賃貸物件が事故物件になったときの対応方法

所有するアパートやマンションなどの賃貸物件で事故が起こった際は、警察や遺族への連絡、原状回復などが必要です。

基本的には管理会社が対応してくれますが、大家として流れを知っておくと、いざというときに安心できるでしょう。事故の発生から順を追って流れを解説していきます。

1. 警察に連絡する

所有する物件内で死亡事故が起こった、もしくは入居者の安否確認が必要な場合は警察に連絡しましょう。

事故の場合は、自殺・他殺によってその後の対応方法が変わるため、警察の立ち会いのもと調査する必要があります。

入居者の安否確認をしたい場合も、許可なく入室すると後々トラブルにつながる恐れがあるので、警察に連絡してどう動くべきか判断を仰いだ方が無難です。

2. 連帯保証人や相続人に連絡する

入居者の死亡が確認された場合は、賃貸借契約の連帯保証人、または相続人に連絡して事実を伝えます。その上で、以下のような各種手続きの進め方を協議しましょう。

・賃貸借契約の引き継ぎ
・賃貸借契約の解約、敷金の清算
・部屋にある荷物の整理
・損害賠償の有無 など

3. 特殊清掃や原状回復を行う

人が亡くなり事故物件となったアパート・マンションの多くは、ひどい汚れやニオイが残っているため、特殊清掃が必要です。

遺体から染み出た体液や血液、室内にこびりついた悪臭は、市販の洗剤や一般的な掃除方法で完全に落とすことは困難です。専門の洗剤や機材を使用し、本格的に掃除してくれる専門業者に依頼しましょう。

特殊清掃の料金は汚れ度合いや業者によって異なりますが、間取りが一つの目安になります。

間取り 料金の相場
ワンルーム 3~10万円
1K~1LDK 7~30万円
2K~2LDK 15~50万円
3K~3LDK 20~70万円

特殊清掃によって室内の汚れやニオイが落ちたら、床や壁紙の貼り換え、畳の交換、劣化している設備の交換といった通常の原状回復を行い、次の入居者を迎えられる状態に整えます。

4. 部屋の明け渡しに向けて動く

特殊清掃と原状回復が終わったら、次の入居者探しに向けて動き始めます。このとき注意が必要なのが告知義務についてです。

先述したように、物件内で入居者が自殺・他殺によって死亡した場合は、事故から3年間は告知義務が発生します。

なお、以下のようなケースでは告知は不要です。

・自然死(老衰・持病による病死)、孤独死
・日常生活の中で起こった不慮の事故による死(転倒、溺死など)
・自殺や他殺から3年間が経過した場合
・死亡事故が起こった場所が物件の共用部分の場合
・賃貸借契約を結ぶ部屋の隣接住戸で死亡事故が起こった場合

事故物件は売却する手も!

保有している物件が事故物件化した場合でも、そのまま賃貸に出すことは可能です。ただ原状回復が必要な上、借主が見つからない、見つかったとしても家賃を減額する必要があるなど、今まで通りの家賃収入は望めないかもしれません。

事故物件の保有で悩んでいる人におすすめなのが、物件の売却
です。売却時の注意点と、おすすめの売却先を紹介します。

事故物件の売却時も告知は必要

賃貸と同じく、自殺や他殺が起こった事故物件の売却時も告知は必要です。賃貸における告知義務は3年が目安なのに対し、売却時の告知期間は無制限で、事故から何年経過しても新たな買主に告知する義務があります。

事故物件であることを告げずに売却すると告知義務違反となり、損害賠償の対象になるので注意が必要です。不動産売買で動くお金は大きい分、損害賠償の額は高くなりがちな上、信用を失う行為でもあるため、売却時は事故物件であることを正直に伝えることが大切です。

事故物件の売却は専門業者への依頼がおすすめ

事故物件を売却しようと思っても、「人が亡くなった」という事実がある以上、一般的な不動産会社は購入を敬遠しがちです。

事故物件の売却を考えたときは、専門業者への依頼がおすすめ。専門の買取業者であれば、他の不動産業者に断られた事故物件であっても、高値で購入してもらえる可能性があります。

事故物件を売りたい!価格相場や高く売るコツ、引き渡しまでの流れを解説

事故物件の売却は「住栄都市サービス」にお任せを

事故物件となったアパートや分譲マンションの売却でお困りの人は、住栄都市サービスにご相談ください。住栄都市サービスは、事故物件や融資不可能な物件の買取などを積極的に行っている不動産会社です。再建築不可能な物件や借地・底地など、どんな物件でも対応可能です。

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事故物件は死因によって損害賠償請求ができる

事故物件に関する損害賠償を遺族に請求できるのは、入居者が自殺した場合です。他殺の場合は犯人に、孤独死・病死でも特殊清掃が発生した場合は遺族に請求できる可能性はありますが、専門家に任せた方が安心でしょう。

事故物件化すると次の入居者が決まりづらくなったり、物件のイメージが悪化したりするため、思い切って売却するのも一案です。その際は事故物件の扱いに特化した専門業者へ依頼するとスムーズに進みます。お困りの方は、ぜひ住栄都市サービスにご相談ください。

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監修
佐々木総合法律事務所/弁護士
佐々木 秀一 弁護士

1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。

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