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共有名義の不動産は売却できる?5つの方法や流れを解説

2024.01.30

家や土地といった不動産は、購入・相続時の状況によって共有名義になっている場合があります。名義人が複数いる場合、全員の同意があれば不動産の売却は可能です。

しかし、実際にどうすれば良いのか分からない人も多いでしょう。本記事では共有名義の不動産について、具体的な売却方法や流れ、トラブルの対処法を紹介します。

「共有名義の不動産」とは?売却前に知っておくべき基礎知識

共有名義とは、一つの不動産を複数人が共有している状態で、一人ひとりが所有権を持ちます。不動産が共有名義になるパターンとして多いのは、夫婦で不動産を購入したケースや、親から不動産を相続したケースです。

売却方法の前に、基本的な内容を押さえておきましょう。

「共有名義」と「単独名義」の違い

家や土地など、不動産の名義には“共有名義”と“単独名義”の2種類があります。

種類 意味
共有名義 複数人で不動産を共有している状態
単独名義 個人で不動産の権利をすべて所有している状態

「建物が妻」「土地が夫」のように、建物と土地で名義が異なる場合は、共有名義ではなくそれぞれが単独名義です。単独名義では所有権を1人で持っているため、個人の意思で自由に売却が可能です。

一方、共有名義の場合は共有者全員の合意がないと、不動産は売却できません。ただし、自分の持分のみ売却することは可能です。

共有持分割合について

共有名義の不動産において、所有している権利の割合を“共有持分割合”と呼びます。

持分割合は共有者全員が均等とは限りません。具体的な割合は、不動産購入時に負担した費用や、相続の割合によって決まります。そのため、共有者が4人の場合は「Aさんが10分の4、Bさんが10分の3、Cさんが10分の2、Dさんが10分の1」と差が出ることもあります。

共有名義の不動産を売却した際は、持分割合に応じた額を分配するのが基本です。その他にも、修繕やリフォーム、増改築といった不動産の維持にかかる費用も、持分割合に応じて負担します。

「共有持分権者」ができること

共有名義の不動産の共有者は、“共有持分権者”と呼ばれることもあります。不動産の維持・管理・売却などに関して、共有持分権者ができることは限定的で、同意が必要な範囲は内容によって異なります。

同意が必要な範囲 できること
単独の意思で可能 ・持分の売却
・修繕、補修
・使用・居住※
過半数の同意が必要 ・短期の賃貸借契約
・リフォーム、リノベーション
全員の同意が必要 ・建物全体の売却
・建物の解体
・増改築

※持分の売却と、不動産の「保存」と「使用・居住」は1人の意思で行えます。例えば自分の持分割合が10分の2だったとしても、不動産全体を使用・居住することは可能です。ただし、その場合は他の共有持分権者に対して賃料に相当する金額を払う必要があります。

それ以上の「管理」「処分」といった行為に関しては、他の共有持分権者の同意が必要です。

このように、共有名義では「誰が・どれくらいの持分割合を有しているのか」がとても重要です。持分割合が分からない場合は、法務局から登記事項証明書を取り寄せることで確認できます。

共有名義不動産の売却方法5つ

共有名義の不動産を売却する方法は、主に次の5つです。

・共有者の同意をもらって売却する
・土地を分筆して売却する
・持分を共有者に買い取ってもらう
・持分を買取業者に売却する
・リースバックを利用して売却する

適した売却方法は共有者の同意の有無によっても変わります。それぞれの詳細を見ながら、どれが良いか考えてみましょう。

1. 共有者の同意をもらって売却する

共有者全員に売却の意思がある場合は、不動産の売却が可能です。基本的には共有者全員が売買契約を結び、利益や費用は持分割合に応じて分配・負担します。

この方法は不動産全体を売却できるので、相場通りの価格が期待できます。5つの売却方法のうち、最も理想的な方法といえますが、共有者の中に1人でも反対する人がいると売却は不可能です。

夫婦や兄弟など、共有者が少ない場合はスムーズに進みやすいですが、人数が多い場合は同意を得るのに難航するかもしれません。

2. 土地を分筆して売却する

不動産の売却に関して共有者全員の同意が得られない場合は、自分の持分のみ売却する方法があります。ただし、通常の建物は分割はできないので、所有している不動産が土地の場合のみ有効です。

共有の土地を分筆する場合、他の共有者に対し、共有物の分割を請求することになります。分割請求により話し合いがまとまれば、具体的に取得する土地を分割するために分筆登記が必要です。分筆とは、登記簿上で「〇番地」と一つになっている土地を、「〇番地1」「〇番地2」のように、複数に分けて登記し直す手続きのこと。

所有権の登記も行うことで、分筆後の土地は単独名義となるため、自分の意思だけで売却が可能です。

分筆する際は、共有名義の土地を持分割合に応じた面積で分け合います。しかし、土地の分け方によって日当たりや形状などに差が出て、資産価値が下がることも。共有者同士のトラブルに発展しやすいので、慎重に進めることが大切です。このように土地の分け方で利害が対立することがあり、話合いによって解決することが困難なときは、後記のように裁判所に共有物分割請求起訴を提起することができます。

なお、分筆は土地の測量や確定図の作成など、さまざまな作業があるため、土地家屋調査士に依頼するのが基本です。また、そもそも他の共有者が分割に消極的な場合もあります。いきなり土地家屋調査士や弁護士に相談するのはハードルが高いと感じるかもしれません。

そのような人は、まず不動産会社に相談してみましょう。本格的に進める場合は、土地家屋調査士や弁護士を紹介してもらえます。

3. 自分の持分を共有名義人に買い取ってもらう

共有名義の不動産が一戸建てやマンションといった建物の場合は、自分の持分を他の共有者に売却するのも一案です。この方法は、売却に関して共有者全員の同意を得られなかった場合に有効です。

売却に反対し、今後も不動産を所有したいと考える他の共有者からすると、自分の持分割合を高められるため、双方にメリットがあります。

特に共有者が2人の場合、相手に売却するとその不動産は共有名義から単独名義に変わります。今までは2人の同意が必要だったリフォームや増改築が自由にできるだけでなく、売却も自分の好きなタイミングで進められるため、相手からしても悪い話ではないはず。

また、共有者は家族・親族であることが多いので、業者を相手にするよりも話し合いがスムーズに進みやすいでしょう。

4. 自分の持分を買取業者に売却する

他の共有者に自分の持分を買い取ってもらえなかった場合は、専門の買取業者に依頼する方法があります。

買取業者は買い取った持分を他の共有者に高値で転売するか、他の持分も買い上げて再販することで利益を得ます。そのため、他の共有者に対して強引に買取・売却を迫る可能性がある点には注意が必要です。

また、業者に依頼すると売却までスムーズに進みやすい一方で、買取金額が低くなることも。無用なトラブルを防ぐため、買取業者に依頼する場合は、その旨を他の共有者に伝えておいた方が良いでしょう。

5. リースバックを利用して売却する

二人で共有している共有名義の家に住んでいる共有者の一人が、この不動産に今後も住み続けたいと不動産の売却に反対しているケースでは、リースバックの利用も一案です。

リースバックとは、自宅を不動産会社に売却した後、賃貸契約を結ぶことで「賃貸住宅」として同じ家に住み続ける方法です。この方法をとる場合、建物に居住している他の共有者とともにそれぞれの建物と土地の持分を売却することが必要になります。

元々住んでいた共有者は月々の家賃の支払いが生じますが、同じ家に住み続けられる上、将来的に買い戻すことも可能です。他の共有者からすると共有名義が解消され、売却の利益を受け取れるメリットがあります。

ただし、リースバックの利用時はいくつかの注意点もあります。一つ目は、住宅ローンの残債が残っているケースです。不動産の売却価格が残債を上回らなければ、リースバックは利用できません。

二つ目は、リースバックの家賃が相場より高くなる可能性があること。金額や契約年数によっては、家賃の支払総額が住宅ローンの返済額を上回る場合もあります。

三つ目は所有権の問題です。リースバックでは不動産を売却しますので、所有権は不動産会社にあります。賃貸契約の内容に沿って住む必要があるのはもちろん、賃貸契約の更新ができない可能性も否定できません。

リースバックの利用を検討する際は、事前に共有者同士でよく話し合うことと、依頼する業者をよく吟味することが重要です。

共有名義不動産の売却|必要書類

不動産を売却する際は複数の書類が必要です。所有者に関する書類は共有者全員分を揃える必要があるので、事前に把握しておきましょう。

不動産に関する必要書類

不動産の所有者や土地の面積などを証明するために、次の書類を用意する必要があります。

登記識別情報(登記済権利証)
登記済権利証は、いわゆる「権利書」のこと。不動産の登記が完了した際に、登記名義人に対して交付されます。不動産登記法が改正された2006年以降は「登記識別情報」と呼ばれ、12桁の英数字で構成されています。

登記済権利証と登記識別情報は、登記人が不動産の所有者であることを証明するもので、共有名義の不動産を売却する際はどちらかが必要です。

なお、2005年までは共有名義で登記した場合でも、権利証は1冊しか発行されませんでした。1冊しかない場合は、次の制度を利用することで問題なく売却できます。

<事前通知制度>
法務局から不動産の所有者へ「登記の申請があったこと」「登記申請は本人が行ったのか」といった通知が送られ、回答することで登記が進められる制度です。

<資格者代理人による本人確認情報制度>
弁護士や司法書士といった資格保有者が、登記官の代わりに本人確認をする制度です。聞き取り調査の他、不動産売買契約書や領収書を見せる必要があります。

<公証人の認証制度>
公証役場で公証人の認証を受ける方法です。自分と公証人の署名捺印のある書類を受け取り、それを売却時に使用します。

土地測量図・境界確認書
売却する不動産の土地面積や、隣地との境界線を示す書類です。測量図がない、もしくは境界線がはっきりしていない場合は、まず土地家屋調査士に測量を依頼する必要があります。

測量には費用と期間がかかるだけでなく、これらの書類がないと売却手続きを進められないため、早めに依頼しましょう。

共有名義人が揃える必要書類

共有名義の不動産を売却する際は、以下の書類が全員分必要です。

・身分証明書
・印鑑証明書
・住民票

印鑑証明書と住民票は、発行から3ヵ月以内のものに限ります。また、署名捺印の際は実印も必要なので、あらかじめ用意しておきましょう。

なお、共有者のうち誰かが売却行為を委任する場合は、委任状が必要です。

共有名義不動産を売却する6ステップ

共有名義の不動産を売却する際は、名義人が多い分、時間がかかることも。スムーズに進められるように、売却の流れを押さえておきましょう。

1. 共有名義人の人数を把握する

先述したように、共有名義の不動産を売却するには、共有者全員の同意が必須です。そのため、まずは「名義人は誰なのか」「何人いるのか」を正確に把握しましょう。

例えば、共有者が兄弟だけだと思っていても、不動産の相続が繰り返された結果、面識のない人も共有者になっている可能性があります。

すべての名義人は、登記事項証明書で確認可能です。法務局の窓口の他、郵送やオンラインでも取得できます。

2. 窓口になる代表者を決める

共有者の人数が確定したら、次は誰が不動産売却の窓口になるのか決めます。不動産を売却する際は、共有者全員から同意を得たり、弁護士・司法書士・税理士といった専門家を手配したりと、やることがたくさんあります。

役割を分担する方法もありますが、「誰が・どこまでやったか」を把握しづらいので、窓口となる代表者を決めるとスムーズです。

共有者の中に、不動産に関する知識や売買の経験がある人がいれば、その人が適任かもしれません。共有者の中から決めるのが難しい場合は、不動産会社にお願いする方法もあります。その道のプロに任せると、安心して進められるでしょう。

3. 費用の負担割合を決める

不動産を売却するときは、以下のような費用が発生します。

<主な費用>
・仲介手数料
・測量費
・抵当権抹消費用
・印紙税
・登録免許税
・譲渡所得税

これらの費用負担は持分割合を基準にします。ただ法的な決まりはなく、自由に設定することも可能です。共有者間の無用なトラブルを防ぐため、事前に話し合って負担の割合を決めておきましょう。

4. 不動産の売却価格を決める

不動産を売り出す前に共有者間で話し合い、最低売却価格を決めておきます。売却価格を話し合わずに売りに出すと、売却価格が想定よりも安かったり、値下げ交渉の結果安くなったりする可能性があるためです。

「最低でもこの金額で売りたい」という価格を決めておけば、金銭トラブルを防ぎやすくなります。

5. 不動産を売却する

売却価格を決めたら、実際に売却活動を始めます。まずは複数の不動産会社に査定を依頼し、結果を比較しましょう。実績やスタッフの対応、口コミなども加味した上で、依頼する不動産会社を決定します。

不動産会社に仲介を依頼した際の、基本的な流れは以下の通りです。

1. 物件を売りに出す
2. 内覧に対応する
3. 重要事項説明・売買契約の締結
4. 代金決済・物件の引き渡し

重要事項説明や売買契約、代金決済など、全員の認識を統一した方が良い場面では、共有者全員の立ち会いが求められます。何らかの理由で立ち会いが難しい場合は、委任状を提出することで対応できます。

6. 売却後に確定申告をする

不動産の売却によって利益が生じ、銀行口座に代金が振り込まれた場合は、確定申告が必要です。不動産の引き渡し後、共有者全員が個別に確定申告を行い、所得税や住民税といった税金を支払います。

なお、共有名義の不動産売却時は、3,000万円までの特別控除を受けられる可能性があります(※)。共有者全員で3,000万円ではなく、1人につき3,000万円です。

※参考:国税庁│No.3308 共有のマイホームを売ったとき

共有名義不動産の売却|トラブル例と対処法

共有名義の不動産を売却する際は、いくつか注意すべき点があります。よくあるトラブル例と対処法を紹介します。

持分を共有名義人に低額で売却すると贈与税がかかる

共有者同士で持分を売買する場合は、贈与税の発生に注意が必要です。夫婦や親族間でのやり取りの場合は、低価格で売買したいと考えるかもしれません。

しかし、無償や相場より低い価格で売却すると贈与とみなされ、売り手側に贈与税が発生してしまいます。

<対処法>
・相場価格を調べ、その範囲内で売却する
・個人間の売買ではなく、不動産会社に仲介してもらう

共有名義人からの同意を得られない

共有名義の不動産を売却したいと思っても、「自分の持分を他の名義人が買い取ってくれない」「他の名義人が売却にも同意してくれない」といったケースだと難航してしまいます。

<対処法>
・裁判所を通して「共有物分割請求」を行う

共有物分割請求とは、他の共有者に対して「共有名義を解消し、自分1人の個人名義にしてほしい」と、裁判所を通して要求すること。共有分割請求を行うと、共有者は以下のような方法で共有状態を解消する必要があります。

方法 内容
全面的価格賠償 請求した人が他の共有者の持分を買取り、単独所有にする
代金分割 共有名義の不動産を売却し、代金を分け合う

ただし、訴訟には費用も期間もかかる上、共有者同士の人間関係が悪化する恐れがある点には注意が必要です。

共有名義の不動産を売却するときは入念な準備を

共有名義の不動産の売却方法は複数あります。共有者全員の同意が得られて、不動産全体を売却できるのが理想ですが、すぐに納得してもらえるとは限りません。

スムーズに進めるためにも、親族間のトラブルを防ぐためにも、共有名義の不動産の売却時は、入念な準備が大切です。共有者間でよく話し合い、全員が納得のいく答えを見つけましょう。

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監修
佐々木総合法律事務所/弁護士
佐々木 秀一 弁護士

1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。

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