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共有持分の不動産は売却できる?4つの方法と費用、トラブル例を解説

2024.01.30

土地や家といった不動産は、購入・相続時の状況により、共有持分が発生している可能性があります。そのような不動産も売却自体は可能ですが、通常より難しいので事前に方法と流れを知っておくと安心です。

本記事では共有持分の不動産について、4つの売却方法と費用、流れ、トラブル例を解説します。

共有持分とは?不動産の売却前に知っておきたい基礎知識

不動産の共同購入や相続が生じた場合、共有持分が発生している可能性があります。そのような不動産は売却時にトラブルが発生しやすく、共有者同士で揉めてしまうことも。まずは共有持分について、基本となる内容を見ていきましょう。

共有持分は所有の割合を示す

土地や建物など、1つの不動産を複数人が所有している状態を「共有名義」の不動産と呼びます。

そして共有持分とは、各共有者が持つ所有権の割合のことです。持分の割合は均等とは限らず、購入時に負担した費用の多さや、相続の割合などによって決まります。

<例>
・購入した不動産:5,000万円の一戸建て
・費用負担:夫3,000万、妻2,000万
・持分割合:夫が5分の3、妻が5分の2

共有持分が発生するケースはさまざま

不動産が共有名義になる理由は多岐にわたりますが、以下のケースが多く見受けられます。

<例>
・不動産を親から相続し、兄弟で共有している
・夫婦で新居を購入し、共有名義で登記を行った
・親子で二世帯住宅を購入し、双方が費用を負担した

上記のケースに当てはまる場合は、共有持分が発生している可能性があります。持分の有無や割合が分からない場合は、登記事項証明書を法務局から取り寄せることで確認が可能です。

共有名義の不動産は売却できる?5つの方法や流れを解説

共有者ができることは限定される

共有の不動産は、各共有者が全てを自由に管理・処分することはできません。各共有者ができることは限定的で、内容によって同意が必要な範囲は異なります。

同意が必要な範囲 できること
単独の意思で可能 ・持分の売却
・修繕、補修
・居住
過半数の同意が必要 ・短期の賃貸借契約
・リフォーム、リノベーション
全員の同意が必要 ・建物全体の売却
・建物の解体
・増改築

ここで重要なのは、共有の不動産を売却するには、全員の同意が必要という点です。自分の持分だけを売却する分には、他の共有者の同意は必要ありません。

この2点を押さえた上で、実際の売却方法を見ていきましょう。

共有持分の不動産を売却する4つの方法

単独名義の不動産と比べると、共有名義の不動産の売却は難航するケースが多く見受けられます。しかし、売却自体は可能です。主な売却方法として、4つの選択肢を紹介します。

1. すべての共有者が同意して売却する

共有者全員が同意すれば、共有不動産でも売却は可能です。土地・建物すべてを売却できるため、相場価格で取引しやすい点がメリットです。

一般的に、売却代金や売却にかかった諸経費は、共有持分に応じて分配します。公平な取引になるので、全員が売却したいと考えている場合は理想的な方法と言えるでしょう。

なお売買契約書の作成時は、共有者全員の署名と捺印が必要です。高齢や遠方といった理由から立ち合いが難しい場合は、委任状を提出することで、代理人による対応が可能になります。

2. 共有者に自分の持分を売却する

売却に際して他の共有者から同意を得られない、もしくは他の共有者が自分の持分割合を増やしたい場合は、共有者間で売買する方法があります。

例えば実家の名義人が自分と兄で、実際に住んでいるのは兄だけの場合。現状は共有名義ですが、自分の持分を兄に買い取ってもらうことで、実家は兄の単独名義になります。

自分には売却代金が入り、兄は所有権を1人で持つことで自由度が高まるため、双方にメリットがあります。

ただし、共有者が3人以上いる場合は「誰に売るか」をよく考えることが重要です。

また親族間で売買する際は、売却価格の設定を慎重に行いましょう。親族だからといって低価格、または無償で譲ると「相場より極端に安い=贈与」とみなされ、売り手側にも贈与税が発生する可能性があります。

親族間トラブルや税金問題を起こさないためにも、共有者間で売買する際は「相場を調べてその範囲内で売買する」「不動産会社に査定を依頼する」などの対策をおすすめします。

3. 自分の共有持分のみ売却する

不動産の売却に関して全員の同意を得られず、さらに他の共有者も自分の持分を購入してくれない場合は、買取業者への売却も一案です。業者であれば自分の持分のみ売却できるので、取引はスムーズに進みます。

自分の持分を無事に売却できても、他の共有者に迷惑をかけるのは避けたいところです。買取業者に依頼する場合は、その旨を共有者全員に伝えておいた方が良いでしょう。

なお買取業者は数多く、なかには悪徳業者も存在します。損をしたり、トラブルに巻き込まれたりしないよう、依頼前に相談する、口コミを見るなど、信頼できる会社かよく見極めましょう。

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4. 土地を分筆してから売却する

共有持分が発生している不動産が土地の場合は、「分筆」と呼ばれる分筆登記をすれば自分の持分だけを売却できます。

分筆とは、登記簿に「〇番地」と1つの土地として登録されているものを、「〇番地1」「〇番地2」のように、複数の土地に分けて登記する手続きのことです。分筆した後それぞれの土地の持分を交換して所有権の登記を行うと、それぞれの土地は単独名義になるので、その後は自分の意思だけで売却できるようになります。

分筆する際は、各共有者が持つ土地をそれぞれの持分割合に応じた面積で分け合います。しかし、日の当たり具合や土地の形状などによって資産価値が下がったり、評価額に差が出たりすることもあるので、まずは共有者同士でよく話し合うことが大切です。

なお、分筆には専門知識が必要なため、土地家屋調査士に依頼するのが一般的です。直接依頼するのは気が引ける、まずは土地の評価額を知りたい場合は、不動産会社に相談してみましょう。分筆を進める場合は、不動産会社から土地家屋調査士を紹介してもらえます。

共有持分の不動産を売却する際にかかる費用

共有持分が発生している不動産を売却する際は、登記費用や印紙税といった諸経費がかかります。どんな内容でどの程度の費用が発生するのか、それぞれ見ていきましょう。

登記費用

共有持分の不動産売却時は、登記変更手続きによって名義を変える必要があります。変更手続きにかかる費用は、3~7万円が目安です。

不動産に抵当権がついている場合は、抵当権を抹消するための「抵当権抹消登記」も必要で、不動産1つにつき1,000円かかります。

これらの登記変更手続きは司法書士に依頼するのが一般的です。その場合の費用目安は次の通りです。

登記の種類 報酬額の目安
所有権移転登記 2万8,000~12万円
所有権保存登記 1万3,000~5万円
抵当権設定登記 2万~7万5,000円

 

譲渡所得税・復興特別所得税

不動産の売却によって利益が出た場合は、所得税・住民税・復興特別所得税を合わせた「譲渡所得税」が課税されます。

譲渡所得税は、保有期間が5年を超える場合に適用される「長期譲渡所得」と、保有期間が5年以内の「短期譲渡所得」の2種類があります。それぞれの税率は次の通りです。

区分 所得税 復興特別所得税 住民税 合計
長期譲渡所得 15% 0.315% 5% 20.315%
短期譲渡所得 30% 0.63% 9% 9.63%

不動産の所有期間が5年を超えているかどうかは、売却した年の1月1日時点で判断します。なお、短期譲渡所得が長期譲渡所得より高いのは、土地の売買を短期間で繰り返す「土地転がし」を防止する目的もあります。

※参照1:No.3208 長期譲渡所得の税額の計算│国税庁
※参照2:No.3211 短期譲渡所得の税額の計算│国税庁

印紙税

印紙税は売買契約書の作成にかかる税金で、収入印紙を貼付することで納税します。税額は不動産の売買価格によって変わりますが、2024年3月31日までは軽減税率が適用され、半分の金額になります。

売買価格 収入印紙の金額
1万円未満 非課税
10万円超え50万円以下 400円(200円)
50万円超え100万円以下 1,000円(500円)
100万円超え500万円以下 2,000円(1,000円)
500万円超え1,000万円以下 1万円(5,000円)
1,000万円超え5,000万円以下 2万円(1万円)
5,000万円超え1億円以下 6万円(3万円)

なお、不動産の売却によって収益が出ない場合でも、印紙税の支払いは必須です。

※参照:No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置│国税庁

仲介手数料

不動産会社を通して売却する場合は、サポートの見返りとして仲介手数料を支払います。手数料の金額は不動産会社によって異なりますが、宅地建物取引業法では以下のように上限が定められています。

売買価格 仲介手数料の上限
200万円以下 売買価格の5% + 消費税(10%)
200万円超、400万円以下 売買価格の4% +2万円+ 消費税(10%)
400万円超 売買価格の3% +6万円+消費税(10%)

各不動産会社は、上記の上限金額以内で仲介手数料を設定しています。割引してくれる場合もあるので、依頼前に確認してみましょう。

共有持分の不動産を売却する8ステップ

共有持分が発生している不動産を売却する場合は、早めの準備が重要です。全体の流れを知っておくと、スムーズに動けるでしょう。最初から最後まで、流れを一通り説明していきます。

1. 共有者を把握する

先述したように、共有不動産を売却するには、共有者全員の同意が必要です。そのため、まずは「共有者が誰なのか」を正確に把握することが大切です。

特に、相続が繰り返されている不動産は要注意です。会ったことのない親族や、故人の前妻、その子どもが共有者になっている可能性があります。

他の共有者の存在が後から発覚すると手続きに支障が出たり、やり直したりする必要があります。売買に進む前に、まずは登記事項証明書を確認しておきましょう。登記事項証明書は法務局で取得でき、窓口・郵送・オンラインと3つの手段があります。

2. 共有者が多い場合は「まとめ役」を決める

共有者の人数が多い場合は、不動産売却のまとめ役を決めましょう。不動産の売却時はやることが多く、役割を分担すると進捗状況を把握しづらいので、代表者を決めるとスムーズに進みます。

まとめ役を決められない、みんな時間がないといった場合は、不動産会社に仲介を依頼する方法もあります。

3. 共有者全員の同意を得る

共有者が確認できたら、全員から不動産売却の同意を得ます。1人でも反対者がいると売却できないので、しっかり話し合い、全員が納得した上で話を進めましょう。後からトラブルが生じないよう、同意書を用意しておくのも一案です。

4. 不動産会社に相談する

売却の意思がまとまったら、不動産会社に査定を依頼します。査定金額は会社によって異なるため、複数社に依頼するのが理想です。

ここで、諸経費の目安や今後の流れなども聞いておくと安心です。査定金額だけでなく、会社の雰囲気やスタッフの対応などもチェックして、信頼できる会社に仲介を依頼しましょう。

5. 費用の負担割合・最低売却価格を決める

不動産会社への相談と同時に、費用の負担割合や最低売却価格を決めていきます。

<費用の負担割合>
共有持分が発生している不動産を売却する際は、先述した複数の諸費用が発生します。費用は持分割合に応じて負担するのが基本です。しかし法的な決まりはなく、自由に設定できるので、共有者間でしっかりと話し合いましょう。

<最低売却価格>
不動産が売れない場合は売り出し価格を下げることがあるので、「ここだけは譲れない」という最低売却価格を決めておきます。

最低売却価格を決めておけば、「売却価格が想定より安くなってしまった」「他の共有者が売却価格に納得しない」といったトラブルを防げます。

6. 必要書類を用意する

費用の負担割合や最低売却価格、依頼する不動産会社が決まったら、以下のような必要書類を用意します

<不動産に関する必要書類>
・登記識別情報(登記済証)
・土地測量図・境界確認書

<共有者全員が揃える必要書類>
・身分証明書
・印鑑証明書(発行から3ヵ月以内)
・住民票(同上)

その他、売買契約書の作成時は共有者全員の実印も必要です。

7. 不動産を売却する

必要書類が揃ったら売却活動が始まります。不動産会社に仲介を依頼した後の流れは、以下の通りです。

1. 物件を売りに出す
2. 内覧に対応する
3. 重要事項説明・売買契約の締結
4. 代金決済・物件の引き渡し

重要事項説明や売買契約、代金決済などの重要な場面では、基本的に共有者全員の立ち会いが必須です。立ち会いが困難な共有者がいる場合は、委任状を用意しましょう。

8. 確定申告をする

不動産の引き渡しが終わり、売却によって利益が出た場合は、共有者全員がそれぞれ個別に確定申告をする必要があります。申告期限は、売却した翌年の2月16日~3月15日なので、遅れないように注意しましょう。

なお、共有不動産の売却時は、1人につき3,000万円までの特別控除を受けられる場合があります(※)。

※参考:No.3308 共有のマイホームを売ったとき│国税庁

共有持分の不動産売却|トラブル例と対処法

共有の不動産は名義人が複数いるため、売却に関するトラブルが起こりやすいもの。全員が気持ちよく取引できるよう、事前に対処法を知っておきましょう。よくあるトラブル例と対処法を紹介します。

共有者との関係が悪化する

不動産全体を売却する場合も、自分の持分だけを売却する場合も、他の共有者との話し合いは必要不可欠です。

しかし売却の同意を得られない、もしくは話し合い中に揉めてしまうと、親族間のトラブルに発展することも。関係が悪化してしまうと、売却自体が困難になってしまいます。

<対処法>
・全員が納得するまで話し合う
・難しい場合は、弁護士や不動産会社に間に入ってもらう

共有物分割請求をされる

自分も不動産を売却したいと思っていても、負担割合や売却価格などに納得できず同意しないと、他の共有者から共有物分割請求をされる可能性があります。

共有物分割請求とは、共有状態にある不動産の分割を求めること。民法によって「各共有者はいつでも共有物分割請求をできる」と認められています。

不動産が対象の共有物分割請求の分割方法は、不動産を競売・売却して代金を分配する「代金分割」か、1人が他の共有者の持分をすべて買い取り、その分の代金を支払う「全面的価格賠償」のどちらかです。

共有物分割請求を起こされると、自分の望まない結果になってしまう可能性があるので、話し合いを放置しないようにしましょう。

<対処法>
・共有の不動産を放置しない
・共有者間でしっかり話し合う
・弁護士、不動産会社に間に入ってもらう

共有持分の不動産も売却は可能!まずは不動産会社に相談を

共有持分が発生している不動産でも、全体もしくは自分の持分の売却は可能です。不動産全体を売却するには他の共有者の同意が必要なので、まずはじっくり話し合ってみてはいかがでしょうか。

同意が得られずどうなるか分からない、不動産の価値を知りたい、自分たちで不動産を売却するのは難しいと感じた場合は、不動産会社に相談してみましょう。

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監修
佐々木総合法律事務所/弁護士
佐々木 秀一 弁護士

1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。

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