不動産の取得後はなかなか触る機会がない権利書。もしも権利書を紛失してしまった場合はどうすれば良いのでしょうか。権利書は、土地や家など不動産の所有権を移転する時に必要になります。
本記事では権利書の概要や必要な場面と不要な場面、紛失した時の対処法、権利書がなくても登記申請を可能にする方法などを解説します。家の権利書がないと慌てる前に対処法を確認しておきましょう。
目次
権利書とは
権利書とは、不動産の所有者を証明する書類のことです。第三者が勝手に所有権を移せないよう、所有者本人を確認する手段として不動産を新規取得する際に法務局から発行されています。
権利書には登記済証と登記識別情報の2種類があります。
権利書①登記済証
登記済証とは、不動産の取得時に所有者として登記申請をした書面へ法務局から受付の押印をされたもののことです。登記済証は平成16年の不動産登記法の改正前に発行されていました。
現在、新規で発行されるものは登記識別情報に切り替わっています。なお法改正前に発行された紙の権利書は引き続き利用できます。
権利書②登記識別情報
登記識別情報とは、不動産の所有者に通知される12桁の英数字のことです。法改正後に所有権を移転する際の暗証番号として導入されました。登記識別情報は「登記識別情報通知」という1枚の書類に記載されています。
以前は記載されている英数字に目隠しシールが貼ってありましたが、現在は袋とじの形になっています。
権利書が必要な場面と不要な場面
権利書は、家や土地の売買・抵当権を設定する際に、不動産の所有者を証明するための必要書類です。不動産の所有権を移転する場面や担保権を設定する場合以外では使用することが少ないでしょう。
ここでは権利書が必要な場面と不要な場面を見ていきましょう。
必要な場面|売買・贈与などで所有権を移転する時
不動産の売買・贈与などをする時、所有権移転登記の申請をして名義変更をするために権利書が必要になります。売却・贈与・財産分与を目的に法務局で登記申請をする際に権利書を使用します。
売却時は、トラブル防止のため仲介をする不動産会社に本人確認として提出を求められることもあります。個人間で売買をした場合も、所有権を移転して名義変更する際に権利書が必要です。
必要な場面|抵当権を設定する時
金融機関からお金を借りる時、不動産を担保にする時は抵当権を設定するために権利書が必要です。返済が滞った場合、金融機関が不動産を差し押さえられる権利を確保するために抵当権を設定します。
住宅ローンや利率の低いローンへ借り換えを行う際の手続きにも権利書が必要です。このように登記申請をする際に、法務局へ提出する書類のひとつとして権利書は必要になります。
不要な場面|相続で所有権を移転する時
相続によって所有権を移転する場合は権利書が不要です。相続の場合は所有者の意思で不動産の所有権を移転するものではないからです。所有権を移転する際に権利証が必要な理由は、所有者本人が不動産を売却する意思を持っているという証となるからです。
そのため、本人の意思で所有権を移転するわけではない相続の場合は、権利書が必要ありません。
紛失するとどうなる?
権利書を紛失すると再発行はできません。権利書は不動産の取得時にのみ発行されるものだからです。権利書は不動産の所有者であることを証明するものなので、紛失しただけでは影響はありません。
紛失しても事前通知の手続きを行なったり、登記識別情報の英数字を把握したりしていれば家や土地の売買・贈与などによる登記手続きは行えます。紛失した際の対処法は次項で詳しく解説します。
権利書を紛失した時の対処法
権利書の紛失に気づいた時は、まずは慌てず実印と印鑑登録証の所在をチェックしてください。権利書だけが紛失した場合だと第三者に悪用される可能性は低くなります。
実印と印鑑登録証がある場合も念のために行動をしておくと、もしもの際にも安心できるでしょう。
1.実印と印鑑登録証を確認する
権利書を紛失した場合は、権利書に記載されている所有者の実印と印鑑登録証があるかを確認しましょう。権利書が紛失しただけでは第三者に悪用される可能性は低いと言えます。
第三者が不動産の所有者を移転しようとした場合は、権利書の他に実印と印鑑登録証が必要です。もしも実印と印鑑登録証が見当たらない場合は、市町村役場に印鑑証明書を発行しないよう連絡をして、警察に紛失届を提出してください。
また、市区町村役場で印鑑登録廃止か改印届を提出します。権利書を紛失した際は、まずは慌てず実印と印鑑登録証を確認しましょう。
2.登記簿謄本を確認する
権利書の紛失に気づいた場合は、念の為に登記簿謄本で不正登記が行われていないかを確認しましょう。もしも記憶にない登記申請の形跡があった場合、すぐに法務局や司法書士に相談して対応を進めてください。
3.不正登記防止申出と登記識別情報の失効申出をする
不正な登記をすばやく察知して行動できるよう、法務局で不正登記防止申出と登記識別情報の失効申出をします。不正登記防止申出とは、申し出から3ヵ月以内に登記があった場合、所有者に通知が届く制度のことです。
この手続きをしておくことで不正な登記を把握でき、法務局や司法書士に相談するなどの対処ができます。登記識別情報の失効申出は、登記識別情報を失効させる申出のことです。失効した登記識別情報は使えなくなります。
どちらの届け出も第三者に不正な登記をさせない手段として有効です。
権利書を紛失しても売却はできる?登記申請を可能にする3つの方法
権利書を紛失しても不動産の売却は可能です。本人だと確認できるよう事前通知制度を利用したり、司法書士に確認書類を作成してもらったり、権利書の代わりになるものを利用する方法で不動産の所有権を移転する手続きが行えます。
1.事前通知制度を利用する
事前通知は、権利書のない登記申請があった場合にその旨を記載したものを、本人限定受取郵便により通知するものです。内容が事実である場合は確認の通知に押印をして、2週間以内に法務局に返送または持参して本人確認の手続きをします。
2.司法書士に本人確認情報を作成してもらう
権利書の代わりになる本人確認情報を司法書士に作成してもらうと登記申請ができます。登記手続きを司法書士に依頼している場合に作成してもらうことが多い傾向です。手数料には報酬が含まれているため金額は10万円ほどかかります。
3.公証役場で本人確認をする
公証人立ち会いのもと、登記申請書に記名・押印をして本人確認をします。認証を付与してもらうことで、登記申請の時に権利書の代わりになります。公証役場で本人確認をする場合の手数料は3,500円ほど。
委任状の作成や混み合っている場合は日程の調整などが必要になります。
権利書以外の売却に必要な書類
不動産を売却する時には権利書以外にも必要な書類があります。権利書以外の書類は、売却する不動産に関する情報を、買主により多く伝えるために必要です。情報をしっかり伝えておくことで、後のトラブルを発生させないための予防にもつながります。
主に必要な書類は以下の通り。
権利書以外で売却時に必要な書類 | マンション | 戸建て | 土地 |
---|---|---|---|
印鑑証明書 | 必要 | 必要 | 必要 |
本人確認書類 | 必要 | 必要 | 必要 |
固定資産納税通知書または固定資産評価証明書 | 必要 | 必要 | 必要 |
登記簿謄本または登記事項証明書 | 必要 | 必要 | 必要 |
売買契約書 | 必要 | 必要 | 必要 |
物件購入時の重要事項説明書 | 必要 | 必要 | 必要 |
土地測量図 | 不要 | 必要 | 必要 |
建築確認証と検査証 | 不要 | 必要 | 不要 |
物件の図面・設備の仕様書 | 必要 | 必要 | 不要 |
マンションの利用規約 | 必要 | 不要 | 不要 |
不動産売却時の具体的な流れを知りたい場合は、以下の記事もチェックしてみてください。
不動産売却のスケジュールと期間|具体的な流れや短くするコツも解説
権利書を紛失しても売却は可能
土地や家の権利書を紛失したとしても事前通知制度や司法書士に依頼することで、不動産を売却することが可能です。権利書は所有権の移転で使用されるもののため、普段はあまり目にすることが少ないもの。
もしも紛失に気がついた場合は実印や印鑑登録証の確認をしてください。どれも見当たらない場合は速やかに対処しましょう。
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1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。