空き家を相続した場合、早めに処分を検討した方が良いといえます。その理由は、固定資産税が増えるほか、近隣住民とのトラブル発展の可能性や、管理に手間や費用がかかるからです。
空き家を処分する方法は9つあり、補助金を活用できる場合もあるので早めの対処が得策です。
この記事では、空き家を処分するための9つの方法や注意点、利用可能な補助金について解説します。
目次
住まない空き家は処分した方がいい理由
実家を相続したけれど「田舎の方にあるのでなかなか管理ができない」などの理由で、空き家になる家が増えています。
空き家を放置しておくとさまざまなリスクがあるため、早めに処分した方が良いでしょう。空き家を処分した方が良い理由は、主に以下の3つです。
・固定資産税が6倍になる
・近隣住民とのトラブルに発展する
・管理するのに手間と費用がかかる
それぞれ詳しく解説します。
固定資産税が6倍になる
空き家を放置して管理が不十分な場合、「管理不全空き家」や「特定空き家」に指定されて固定資産税の減税が受けられなくなる可能性があります。
通常、住宅用の土地にかかる固定資産税は、「住宅用地の軽減」という制度によって減税されています。
しかし、特定空き家に指定された場合、特例の対象外となるため、翌年から固定資産税が6倍に上がってしまうのです。
ただし、特定空き家に指定されてから一定の猶予期間内に改善が見られた場合、増税を回避できます。とはいえ、修繕にも費用がかかるため、住まない空き家は早く手放した方が良いでしょう。
近隣住民とのトラブルに発展する
空き家を放置していると草木が生い茂り、虫や害虫が発生し、近隣住民とのトラブルに発展するリスクがあります。
また、空き家という理由から廃棄物を不法投棄されるケースも見られます。さらに、劣化による崩壊などにつながる恐れもあり、人的被害を出してしまう可能性も高いでしょう。
被害者から損害賠償を請求されることもあるため、注意が必要です。こうした近隣トラブルを避けるためにも、住まない空き家は早く処分した方が良いといえます。
管理するのに手間と費用がかかる
空き家は劣化するのが早いため、しっかりと管理を行わなければなりません。
近隣に迷惑をかけないためにも、頻繁に訪問し、状況を確認する必要があるでしょう。しかし、頻繁に通うには、手間と時間がかかります。
特に遠方の場合は、時間を確保するのも大変です。管理会社に管理を依頼する方法もありますが、月々5,000円~1万円程の費用が発生します。
このように空き家を管理するのには、手間と費用がかかるため、早めに処分した方が良いでしょう。
空き家を処分する方法9つ
早く空き家を処分したいと思っても、「こんな古い家、売却できるのかな…」と不安を抱く人も多いかもしれません。
空き家はそのまま売却するだけでなく、さまざまな処分方法があります。ここでは空き家を処分する9つの方法をチェックしていきましょう。
1.隣地の人に声をかける
隣地の人に声をかけると、売却しにくい空き家がスムーズに売却できる場合があります。
なぜなら、隣地の購入によって土地の形状や接道、活用の幅など、土地の悪条件が改善されるケースがあるからです。
昔から「隣地は多少価格が高くても買った方が良い」という風潮があり、資産価値が高くなるといわれているため、空き家であってもスムーズに売れることがあります。
2.売り出し価格を下げる
空き家がなかなか売却できない場合は、売り出し価格を下げるのも一つの手段です。少しでも高く売りたいという思いから、相場よりも高い価格設定になりやすい傾向があります。
売り出し価格を見直す際には、需要を再度想定し、条件に見合った価格設定を検討しましょう。
取引額や地価変動などの市場動向をチェックするほか、同じ地域内での物件成約価格や競合物件の売り出し価格などから価格を見直すのがポイントです。
売れない空き家は、2割以上の値引きが必要になる場合も多いでしょう。
3.リフォームする
建物の設備や劣化が原因で売却できない場合は、リフォームも検討しましょう。水回りを新しくしたり外壁をきれいにしたりすることで、購入者に好印象を与えられます。
ただし、リフォームしたからといって必ずしも売れるわけではありません。費用をかけすぎないよう、最小限のリフォームに抑えることをおすすめします。
どの箇所をリフォームすると売却につながるのか、不動産会社に相談してみると良いでしょう。
4.不動産会社を変更する
古民家専門の不動産会社に変更するのも、ひとつの方法です。昨今は、古民家ブームもあり、築年数の古い物件を求めている人も一定数存在します。
古民家専門の不動産にはこのような顧客が集まるため、空き家が売れる可能性も高くなるでしょう。
さらにリフォーム工事をやっている不動産会社の場合、工事費を物件価格とセットにすれば売却できる可能性もあります。
自分でリフォームしたい人が集まってくるため、空き家が売れるチャンスともいえるでしょう。
5.家を解体して土地を売却する
空き家を解体して土地として売却すると、注文住宅を建てたい人が土地を購入する可能性があります。
家の解体費用は、木造戸建ての場合で1坪4~5万円が相場です。一般的な戸建ての場合、30坪程度が多いため解体費用は90~150万円程度になります。
空き家を解体して更地として土地を売り出すことで、注文住宅を検討している人や不動産会社などに売りやすくなるのがメリットです。
6.誰かに無償で譲渡する
空き家を誰かに無償で譲渡する方法(贈与)もあります。
周辺の飲食店などの事業者は、駐車場などに利用する土地を探している場合があるため、無償で譲り受ける可能性が高いといえます。
また、隣地の人も、無償で譲渡なら引き受けてくれるケースもあるでしょう。ただし、無償譲渡する場合は贈与税がかかることがあります。
物件を譲り受けた受贈者には贈与税が発生します。贈与の額が年間110万円以下の場合はかかりません。
7.土地活用する
空き家を取り壊して、土地を活用するのもひとつの方法です。駐車場や太陽光発電などの活用法があります。
土地の広さに限らず、需要がある立地であれば、コインパーキングや月極駐車場としての経営が成り立つでしょう。
駐車場なら新たに建物を建てる必要もないため、初期費用も抑えられるのが良い点です。
また、太陽光発電による土地の活用も、初期費用や維持費が抑えられるほか、長期的に安定した収入が得られるメリットがあります。
8.不動産会社に直接売却する
不動産会社に直接売却する方法もあります。不動産売却をする場合、不動産会社が仲介業者として、売主と買主との間に入るのが一般的ですが、不動産会社が直接買い取る場合もあります。
ただし、基本的に相場の約6~8割の売却価格になるため注意しましょう。相場より売却価格が安くなる理由は、不動産会社が物件を買い取った後、販売して利益を出すためです。
しかし、売れない空き家の処分に困っているなら、多少価格が安くても不動産会社に直接買取してもらうのもありでしょう。買主を探す時間や手間がなく、早く現金化できるのが良い点です。
9.相続土地の国庫帰属制度を利用する
相続した土地であれば「相続土地国庫帰属制度」に申請してみるのもひとつの手段です。
相続土地国庫帰属制度とは、相続した土地を国に引き取ってもらえる制度で、2023年4月に法律として導入されました。
しかし、相続土地国庫帰属制度は建物が建っていると利用できないため、解体費用がかかることを覚えておかねばなりません。また、以下のような土地は利用不可とされています。
・通路が含まれる土地
・担保権が設定されている土地
・汚染されている土地
・管理するのが難しい崖などが側にある土地
これらは一部で、他にも利用条件があります。相続した土地が必ずしも引き取ってもらえるわけではないと認識しておきましょう。
空き家を処分するときの注意点2つ
空き家を処分するときには、以下の2点に注意する必要があります。
・売却前に名義変更を済ませておく
・土地の境界確定をしているか確認する
それぞれの内容を詳しく解説します。
売却前に名義変更を済ませておく
相続した空き家の場合、売主を明確にするために名義変更が必須になります。空き家の名義が被相続人(亡くなった人)のままだと、誰が売主なのかわからず、第三者の買主が混乱してしまうからです。
2024年4月から相続した不動産の名義変更は義務化されています。名義変更する方法は、必要な書類を法務局の窓口または郵送やオンラインを使って自分で提出するか、司法書士に依頼する方法があります。
司法書士に依頼する場合は、10万円程度の費用が発生すると理解しておきましょう。
土地の境界確定をしているか確認する
土地の境界確定とは、道路や隣地との境界を明確にすることです。空き家を売却する際には、土地の境界確定をしているかの確認も必須になります。
なぜなら戸建てや宅地の売買において、買主はすべての境界が確定しているかを条件として求めてくるからです。
土地の境界は、法務局が管理する登記簿謄本や地積測量図で確認することができます。これらはインターネットを使って個人で取得することも可能です。
ただし、登記簿謄本や地積測量図から境界を調べるのは多少コツがいるため、法務局に相談するか土地家屋調査士に依頼すると良いでしょう。
空き家を処分するときに利用できる補助金
一定の条件を満たしていれば、空き家を処分するときに以下の補助金が利用できるケースがあります。
・相続した空き家を売却するときの3,000万円の特別控除
・低未利用地の特別控除
それぞれの補助金の内容を確認していきましょう。
相続した空き家を売却するときの3,000万円の特別控除
相続した空き家を売却するときに、3,000万円の特別控除が受けられます。空き家を売却した際の税金が安くなる制度です。
ただし、空き家を相続してから3年以内の売却が特別控除の使用期限になっています。売ることを決めたのであれば、早めに売却に踏み切ると良いでしょう。また、以下のようにいくつか適用要件があるため、事前の確認が必須です。
・実家を相続した人であること
・相続したときから空き家であること
・昭和56年5月31日以前に建築されていること
・相続人の親が一人暮らしをしていた家であること
・売買価格が1億円以下であること
3,000万円の特別控除を受けるには、これらの要件を満たしている必要があります。
低未利用地の特別控除
低未利用地の特別控除とは、都市計画区域内にある一定の低未利用地を500万円以下で売却した場合に、譲渡所得金額から100万円を控除できる制度です。
相続した空き家を売る際、譲渡するときの税率は長期譲渡税率で約20%になるため、この特別控除によって最大で20万円も手取りを増やせます。
譲渡所得が100万円に満たなかった場合は、その譲渡所得の金額が控除されます。低未利用地の特別控除を受ける場合にも、以下のような要件があるため確認が必須です。
・売却した年の1月1日時点で5年を超えて所有していること
・売主と買主が親子関係や親族関係でないこと(内縁関係や特殊な関係のある法人含む)
・売却後に土地が活用されること
その他の要件もあるため、国税庁のホームページで確認することをおすすめします。
空き家を処分するときにかかる費用
空き家を処分するときにはどれくらいの費用がかかるのか気になるものです。空き家の処分には、主に以下の費用がかかります。
・家財の処分費用
・解体費用
具体的にどれくらいかかるのか、詳しく見ていきましょう。
家財の処分費用
空き家内に家財が残っていれば、家財の処分費用がかかります。空き家を解体する場合でも、家財は先に処分しておかなければなりません。
なぜなら解体業者は家財の処分を行ってくれないことがほとんどだからです。そのため、家財の処分は専門業者に依頼する必要があります。
戸建ての大きさや家財の量にもよりますが、20万~60万円程度の処分費用がかかるとみて良いでしょう。専門業者を探す場合は、「遺品整理サービス 地域名」などで検索するのがおすすめです。
解体費用
空き家を解体する場合は、解体費用もかかります。木造戸建ての場合で、1坪あたり3万~6.5万円程度です。
例えば、20坪の場合62~130万円、40坪の場合は124~260万円程度になります。ただし、立地や劣化の状態で価格も変わるため参考程度に留めておきましょう。
また、解体費用を抑えるためにあらかじめゴミの処分や、雑草・庭木の除去をしてくのもポイントです。さらに解体業者によっても費用が異なるため、複数の業者から見積もりをとるのも良いでしょう。
空き家を処分するまでの流れ
空き家を処分するまでの流れは以下の通りです。
1.不動産会社に査定を依頼する
2.不動産会社と媒介契約を結び、売却活動開始
3.売れない場合、不動産会社の直接売却や譲渡も検討
4.空き家の処分が完了
まずは不動産会社の仲介を通して第三者への売却を目指しましょう。不動産会社に査定を依頼する際には、複数の会社に依頼するのがおすすめです。
ただし、電話対応に追われるなどのリスクもあるため、依頼しすぎには注意しましょう。
不動産会社と媒介契約を結び、売却活動をしてもなかなか売れない場合には、不動産会社に直接買取してもらうか、無償譲渡も検討すると良いでしょう。
不動産への直接売却は価格が下がりますが、スムーズに売却が進められます。無償譲渡の場合、利益は出ませんが固定資産税の支払いやメンテナンス費用から解放されるメリットがあります。
先述した通り、相続した空き家は3年以内に売却すれば3,000万円控除が適用される場合もあるため、早めに処分が完了するようスケージュールを組むのがおすすめです。
空き家の処分でよくある質問
空き家の処分でよくあるのが以下の質問です。
「空き家は相続放棄できる?」
「自治体に引き取ってもらえる制度はある?」
「田舎の空き家は売却しにくい?」
これら3つの質問に対する回答を見ていきましょう。
空き家は相続放棄できる?
空き家を相続放棄することは可能です。しかし、空き家のみを放棄することはできず、すべての財産を放棄することになります。
プラスの財産がある場合にも、相続することができなくなるため、空き家が不要だからといって安易に相続放棄しない方が良いでしょう。空き家を放棄したい場合は、全ての相続財産を確認し、賢明な判断をくだす必要があります。
自治体に引き取ってもらえる制度はある?
今の段階では、空き家を自治体に引き取ってもらうことはできません。個人の責任で売却するしか方法がないため、早めの処分を心がけましょう。
自治体が主となって運営している「空き家バンク」という空き家情報提供サービスもあります。ただし、不動産会社の仲介などはなく、売主と買主で直接やり取りしなければならないため、注意が必要です。
田舎の空き家は売却しにくい?
田舎は住宅を購入したい人が少ないため、空き家がなかなか売れないケースが多いといえます。
対策として、売却価格を下げたり、近隣住民に声をかけてみたり、リフォームを検討したりしてみると良いでしょう。また、更地にして土地として売り出すのもひとつの方法です。
不動産会社への直接売却も難しい場合には、相続土地国庫帰属制度の利用を検討するのも良いでしょう。
空き家を処分するなら早めに行動しよう
空き家は所有しているだけで固定資産税が増え、近隣住民とのトラブルに発展する可能性があるほか、管理に手間や費用がかかるため、早めに処分するのがおすすめです。
空き家の処分方法は、隣地の人に声をかけたり売り出し価格を下げたりするなど、主に9つの方法があります。
空き家を処分する際の注意点や補助金にも考慮し、早めに空き家を処分するための行動を起こしていきましょう。
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1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。