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認知症の親が所有する不動産売買はどうしたらいい?利用できる制度や売却までの手順などを解説

2024.08.04

親が認知症になると、親が持っている不動産の売却が難しくなります。しかし、成年後見制度や家族信託を利用することで、親の代理で不動産を売却することが可能です。この記事では認知症の親が所有する不動産の売却時に利用できる制度や売却の手順、トラブルなどについて解説します。

目次

認知症の親が所有する不動産の売却は難しい

親が認知症と診断されると、親が所有している不動産を売却するのが難しくなってしまいます。認知症は記憶の混濁や意思能力(判断能力)の低下などを引き起こすので、重度の認知症の人は意思能力がないと判断されます。

不動産売買契約するためには、「本人が本人の意思で契約している」ことが必要です。重度の認知症では意思能力がないと見なされますので、本人が不動産の売買契約をすることが難しくなります。もし、親が認知症と診断された後に不動産を売買する場合は、法定後見制度の利用を検討しましょう。

家族が代理人なら売買できる?

重度の認知症の親の代わりに、例え子どもでも代理人として自由に不動産売買することは困難です。親に意思能力がないと、「法的に有効な代理人」を立てるための意思確認が取れないと判断されるためです。したがって、子どもでも代理人として認められません。

委任状があれば代理人になれる?

親が軽度の認知症で、意思能力があると判断された場合、委任状を作成することで家族が親の代理人として不動産売買の手続きが可能なこともあります。ただし、意思能力がないと判断されてしまうと委任状は無効となり、不動産売買の手続きはできません。

認知症とは

認知症は記憶や判断力などの認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす病気です。日本では高齢化とともに認知症と診断される人が増加しています。不動産売買においては、病状による「意思能力(判断能力)」の程度が重要な要素となります。

成年後見制度とは?利用できる制度が2種類ある

成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などにより、意思能力が低下した人(本人)を支援する制度です。成年後見人は家庭裁判所への申立てにより選任されます。

そして不動産や貯金などの「財産管理」や介護施設への入所契約などの「身上保護」を支援してくれます。意思能力が低下した人を法的に保護し、本人に代わり必要な契約等を行うなどの支援をする制度です。

成年後見制度には「任意後見制度」と「法定後見制度」があり、どちらの制度を利用するかは、本人(支援が必要な人、今回の例は親の場合)の意思能力の程度によって決められます。
ここでは「任意後見制度」と「法定後見制度」について解説します。

任意後見制度とは

任意後見制度は、親が認知症になる前にあらかじめ信頼できる後見人を本人が定めておく制度です。将来、認知症や障害などで意思能力が低下したときのために、「代わりにやって欲しいこと(任意後見契約)をやってくれる人(任意後見人)」を本人が選び、決定しておくのが特徴です。

任意後見制度では、サポートする内容を事前に決定し、契約(任意後見契約)する必要があり、任意後見人は任意後見契約で契約したこと以外は代理できません。

本人が任意後見人を選び、任意後見契約を結ぶので、本人の意思が尊重されます。

法定後見制度とは

法定後見制度は、親が認知症などになり意思能力が低下してしまった後に利用できる制度で、家庭裁判所によって法定後見人が選ばれます。

法定後見人は、親の意思能力の度合いに合わせて「後見」「保佐」「補助」の3つに分けられます。どの度合いが適当なのかは、医師の診断書や本人との面談により家庭裁判所が決定します。

法定後見人は本人の利益を考えながら、本人の代理で法的行為をする代理権と取消権を持っています。本人の同意がない状態で交わされた不利益な契約を取消して、本人を保護、支援できます。

成年後見人として認められる人

特別な資格がなくても成年後見人として認められます。親族や司法書士、弁護士、社会福祉士などが選任され、本人との利害関係などを考慮し、裁判所によって選定されます。

未成年や破産した人、本人に対して訴訟を起こした人やその配偶者などは成年後見人に選定されません。また遺産分割協議をする必要があるなど親族間で争いがあると、親族でも選ばれないこともあります。また家庭裁判所によって選ばれた成年後見人に対し、不服申立てはできません。

成年後見人ができること

成年後見人は認知症の親の代わりに財産管理、身上監護ができますが、職務内容を報告する必要があります。ここではそれぞれ詳しく説明します。

①財産管理
意思能力が低下した人に代わり、本人の財産を管理します。

・預貯金や現金の出入金の管理
・不動産の管理や売買・税金の申告や納税
・保険金の受け取り
・年金の申請や受け取り
など

②身上監護
意思能力が低下した人の健康や安全を守るため、契約の手続きなどを行います。

・入院などの医療に関する契約や支払い
・介護などに関する契約や支払い
・介護保険サービスを受けるための要介護認定の申請
・家の賃貸契約や支払い、更新
など

③職務内容の家庭裁判所への報告
成年後見人は財産管理と身上監護を行いますが、適切に業務がされていることを家庭裁判所に報告する必要があります。そのため原則年に1度、家庭裁判所に対して自主的に事務の報告を行います。

成年後見制度に関わる費用

成年後見人制度を利用する場合、家庭裁判所への申立てに費用がかかります。家庭裁判所に申立てするときにかかる費用は以下の通りです。

・収入印紙:3,400円分(申立手数料800円、登記手数料2,600円)
・郵便切手:3,000円〜5,000円
・医師の診断書の作成費用:数千円(病院によって異なる)
・本人の意思能力についての鑑定費用:10万〜20万円程度
・その他書類:住民票などの発行代、送付費用など

任意後見制度の公正証書作成のための費用

任意後見制度を利用する場合、任意後見契約公正証書の作成が必要です。

・公正証書作成手数料:1万1,000円
・登記嘱託手数料:1,400円
・登記所に納付する印紙代:2,600円
・その他:本人らに交付する証書代など

専門家に依頼した場合などの報酬

成年後見人を専門家に依頼すると報酬を支払うことになります。他にも成年後見監督人や任意後見監督人への報酬が発生し、その報酬額は裁判所の「審判」によって決定されます。審判によって決定された報酬以外は受け取れません。

一般的に、法定後見人への報酬は月額2万円が目安ですが、財産管理額に応じて報酬額が異なります。また任意後見人への報酬は、任意後見契約で決められた金額を支払ってください。任意後見人が親族の場合は無報酬〜3万円程度、専門家の場合は月額3万〜5万円程度が相場です。

成年後見制度のメリット・デメリット

成年後見人制度を活用するときには知っておくべきメリットとデメリットがあります。制度についてしっかり理解し、手続きすることが大切です。

成年後見制度のメリット

成年後見制度を利用することで、親が重度の認知症になっても不動産の売買ができるようになります。例えば親の介護でまとまった金額が必要な場合や、施設入所で空き家になった家を売りたい場合などで利用できます。

法定後見制度では、意思能力がない人が行った不利益な契約や詐欺を無効化できるのが特徴です。任意後見制度や家族信託に取消権はありません。

成年後見制度のデメリット

成年後見制度を利用する場合、家庭裁判所に申立てする必要があります。後見人が選ばれるまでに数ヶ月かかることもあるので、余裕を持って手続きを進めていきましょう。

法定後見人が専門家になった場合には、親が亡くなるまでの報酬が必要となり、金銭的な負担が増えます。また家庭裁判所に不動産の売却を認められないことがあり、不動産の処分に時間がかかるため、処分しにくくなります。

なぜ不動産の売却が必要なのか、売却が本人にどんな利益があるのか説明できるようにしておきましょう。

法定後見制度を利用した不動産売買の手順

法定後見制度を利用し、不動産を売却する場合、家庭裁判所に申立てをする必要があります。ここでは家庭裁判所への申立てから不動産の売却までの手順を解説します。

家庭裁判所に「成年後見制度開始」の審判の申立てをする

必要な書類を準備し、家庭裁判所に成年後見人制度開始の審判の申立てをします。申立てできる人は本人とその配偶者、親戚などで、申立て先は親本人の住所地を管轄する裁判所です。

自分で申立てをすることが不安だったり難しかったりする場合、司法書士や役所への相談をおすすめします。

家庭裁判所が審理を行い、必要な場合は医師の鑑定を受ける

申立書が受理されると、家庭裁判所の調査官が申立人、本人、後見人の候補者と面談し、ヒアリングします。親族にも面談し、親族同士の揉め事がないかなどを確認し、必要な場合は本人の意思能力の程度を確認するために医師の鑑定が行われます。

法定後見人が選定される

家庭裁判所が法定後見人に適した人を選定します。申立てから審判までは約2ヶ月ほどかかり、親族ではなく司法書士や弁護士などの専門家が選ばれることもあります。

法定後見人が選定されれば不動産査定ができるようになるため、不動産会社とは連絡をとっておくなど、先を見越した準備を始めておきましょう。

建物の査定を受け、不動産会社と媒介契約を結ぶ

信頼できる不動産会社を探しておき、売却を依頼するための「媒介契約」を結びましょう。不動産の査定額は不動産会社によって異なるので、複数の不動産会社に依頼して査定額を比較することをおすすめします。

媒介契約を結んだら、不動産を売り出します。不動産を売り出すと購入検討者が「内覧」に来るので、それまでに家の中の整理や掃除をしておいてください。

居住用不動産の場合は家庭裁判所の許可を受ける

居住用不動産とは、本人が住んでいる建物やその敷地のことです。本人が入院していたり施設に入っている場合、退院後に帰る予定の家のことを意味します。

居住用不動産を売却するときには家庭裁判所の許可が必要です。家庭裁判所に「居住用不動産処分の許可の申立て」を行い、許可を得ましょう。許可なしで売買契約を結んだ場合、契約は無効となり、トラブルに発展することもあります。

買主と売買契約を結ぶ

家庭裁判所の許可を得た後は、法定後見人が代理人として買主と売買契約を結ぶことになります。原則として、売買契約は法定代理人、買主、仲介している不動産会社が集まり、契約内容の確認と署名押印を行います。

決済、引き渡しをする

決済は法定後見人、買主、不動産会社、司法書士が金融機関などに集まって行います。買主から売買代金を受け取り、不動産を引き渡しましょう。

家族信託を利用する

家族信託とは、親が将来意思能力を失うことに備えて、あらかじめ親の財産の管理や運用する権限を家族に任せる制度で、利用者が増えています。

軽度の認知症で意思能力がまだ十分にある場合にも利用できます。将来親が重度の認知症になってしまったとき、親の不動産や預貯金などの資産を家族が動かせるのが特徴です。

家族信託のメリット

家族信託のメリットは、成年後見制度よりも財産の管理方法の自由度が高いことです。家族信託を組成しておくと、契約に定めた信託目的の範囲内なら、財産の管理方法を柔軟に検討できます。

信託財産の名義が親から受託者に置き換えられるので、不動産売買やリフォーム費用のためのお金の出入金などが可能です。契約時に家庭裁判所は関与しないので、後見人などの専門家に報酬を払う必要がなく、ランニングコストがかかりません。

家族信託のデメリット

家族信託にはデメリットもあります。家族信託は法律行為の一種と判断されるため、親が認知症になって意思能力を失ってしまうと利用できません。親が元気なうちから手続きを進めておくのがおすすめです。

また信託契約をするときには費用がかかります。不動産を信託財産にする場合、不動産の名義変更が必要です。名義変更や信託口座の開設などの書類作成手続きに司法書士や弁護士などに依頼すると報酬が発生してしまいます。

そして家族信託は、財産の管理を任されている家族がその財産を使い込むリスクがあります。このリスクは「信託監督人」などを選出することで対処できるので、家族でしっかり話し合ってください。家族信託には身上監護の機能はないので、任意後見制度との併用も検討しましょう。

成年後見制度と家族信託の違い

成年後見制度と家族信託はどちらも認知症などによる意思能力の低下した人をサポートする制度ですが、それぞれにメリット・デメリットがあります。どちらを利用すべきか家族でよく話し合いましょう。

2つの制度は併用できるので、場合によっては両方の制度を利用することを検討してください。

<制度の開始>
・成年後見制度:本人の意思能力低下後に家庭裁判所へ申立てる
・家族信託:本人の意思能力があるうちに当事者間(家族など)で契約する

<財産管理者の選任>
・成年後見制度:家庭裁判所が決める
・家族信託:本人が決める

<財産管理の柔軟性>
・成年後見制度:本人の財産を守ることが目的なので柔軟性に欠ける
・家族信託:信託目的に応じた範囲で財産管理ができる

<身上監護の契約>
・成年後見制度:契約できる
・家族信託:契約できない

認知症の親の不動産に関するよくあるトラブル

ここでは親の不動産売買に関するトラブルについて2つ紹介します。トラブルに発展するような行動をしないように気をつけましょう。

本人以外が不動産を勝手に売却する

親の認知症をきっかけに、子供や親戚が勝手に不動産を売却してしまうことがあります。しかし、家族が代理で親の不動産を売却することはできません。

名義人以外の者が不動産を売却した場合、契約は無効となったり、訴訟に発展する可能性があるので注意しましょう。

認知症の親名義で不動産を購入する

認知症の親名義で不動産を購入しても、本人には意思能力がないと判断された場合は契約が無効になります。親の介護のために家を購入するとしても、意思能力に問題がある場合は親名義での購入はできません。

親の意思能力があるうちに話し合うことが大切

親が重度の認知症になると、今後についての話し合いは困難を極めます。親の意思能力がしっかりしているうちに、不動産の相続の方法や財産の管理などにおいて事前に決めておけばトラブルを回避できます。

成年後見制度、家族信託、生前贈与などいくつか選択肢があるので、それぞれの制度についてしっかり理解し、自分たちにあった制度を利用しましょう。

専門家に相談することもおすすめ

成年後見制度や家族信託を利用する場合、手間と費用がかかります。これらの制度を利用するときには弁護士や司法書士などの専門家に相談すると安心です。

家庭裁判所への申立てには必要な書類が多いため、不安な人や手間を少なくしたい人は専門家に相談し、適切なアドバイスを受けながら正しく手続きを進めていきましょう。

まとめ

親が認知症になってしまうと、子どもが代理人でも親の不動産売買は難しくなりますが、成年後見制度や家族信託を利用することで、不動産売買が可能です。それぞれのメリット・デメリットをしっかり理解した上で手続きを進めましょう。

親が元気なうちに不動産や資産について家族で話し合い、将来に備えておくことが大切です。

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監修
佐々木総合法律事務所/弁護士
佐々木 秀一 弁護士

1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。

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