「相続した空き家の管理ができない」「誰も住まない実家を売りたい」など空き家を処分したい理由はさまざま。早く売りたいのに売れなくて困っているという人も多いでしょう。長年放置してしまうとさらに処分しにくくなってしまいます。売れない空き家を処分するための対処法などを解説します。
目次
空き家を放置するリスク
一般的に誰も住まない実家は相続すべきでないとされています。田舎の空き家を相続すると、処分しようにもなかなか買い手がつかずに数年経ってしまうことも。たとえ空き家でも、税金の支払いや空き家の維持や管理などが必要なので、所有者に身体的・金銭的負担がかかってきます。
何も対策しないままで空き家を放置するのはリスクにつながることもあります。もし放置している空き家でトラブルが起きてしまったら、所有者の責任になってしまうためです。ここでは空き家を放置するデメリットを4つ紹介します。
固定資産税の支払いが毎年発生する
土地や家屋などの不動産を所有していると、必ず税金がかかります。誰も住まない空き家だとしても、所有している限り固定資産税を毎年支払わなくてはいけません。
一戸建ての平均的な固定資産税は年間10万〜15万円ほどですが、空き家のある地域・土地の大きさや建物の大きさなどによって税金額は変化します。
固定資産税は毎年1月1日時点での不動産の所有者に課税されるので、誰も住まない空き家はできるだけ早めに売却するのがおすすめです。固定資産税を滞納していると延滞金が発生し、最終的には財産を差し押さえられることもあるので注意。毎年4月〜6月頃に納税通知書と納付書が郵送されるので必ず確認しましょう。
維持・管理に費用がかかる
近隣住民への迷惑や特定空き家の指定を避けるために、定期的に空き家の状態をチェックし、適切に管理しましょう。空き家の維持管理費用は、水道代や草刈りのための電気代などが挙げられます。遠方から管理のために長距離移動する場合には交通費もかかるので、多くの手間や時間を費やすことになります。
自分で十分に管理できない場合は、空き家の管理代行サービスなどに任せることも検討しましょう。もちろんこれらには費用がかかり、トラブルなどで対応が必要な場合には別途費用がかかることもあります。
「特定空き家」に指定される可能性がある
空き家の管理を適切に行っていないと、自治体から「特定空き家」に指定される可能性があります。特定空き家とは、「空き家法」に基づき、以下のような建物を「特定空き家」として指定しています。
- 1.建物、門や柵などが破損や老朽化し、倒壊の危険がある状態
- 2.異臭、ゴミの放置や害獣の繁殖など、衛生上有害となる恐れのある状態
- 3.管理が適切に行われずに著しく景観を損なっている状態
- 4.倒木、不審者の侵入、落雪の危険など、近隣住民の生活に悪影響が発生している状態
つまり倒壊の危険や衛生面、景観などが損なわれている状態で、周囲に悪影響を与える物件が指定されます。特定空き家に指定されると、固定資産税の優遇措置が適応されなくなります。固定資産税は更地状態と同じ額になり、最大で6倍になってしまうかもしれません。
税金の負担額を増やさないためにも、所有している空き家が特定空き家に指定されないようにしっかり管理しましょう。
近隣住民への迷惑、トラブルに発展する
空き家の管理が行き届かずに放置していると、近隣住民とのトラブルに発展してしまうことも。家を放置すると老朽化が加速し、建物の崩壊の危険が増加します。また雑草が生い茂って景観を悪くしたり、不法投棄のリスクも高まります。虫の発生や動物によって庭が荒らされるなどの損害が起こりやすくなり、近隣住民からのクレームにつながるかもしれません。
空き家でトラブルが起きると、それは空き家の所有者の責任です。たとえば空き家の倒壊などで誰かがケガをしてしまえば、高額な損害賠償責任が発生することも。そのようなトラブルを避けるために、空き家の維持管理はしっかりしましょう。
空き家が売れない3つの理由
空き家が売れない理由は主に3つ考えられます。所有している空き家が売れない理由を把握し、適切に対処して早めの売却を目指しましょう。
①立地が悪い
地方や田舎で生活に不便な立地だとなかなか買い手がつきません。都市部では駅からの距離が遠かったり、市街地まで車で10分以上かかると需要が減り、売れにくくなってしまいます。
生活に必要なスーパーや病院、公共施設までのアクセスの良さは住宅購入において重要な要素です。立地が悪い場所にある空き家を売るのは一般的に難しいとされています。
②建物の状態が悪い
築年数が古いと建物自体が老朽化し、雨漏りや床や外装のヒビ、水回りの設備などに問題が多く発生します。また木や雑草が伸びていたりなど、庭が荒れている場合も「問題がある」と認識されてしまいます。
建物の状態や外観が悪い空き家に住むためには、リフォームや周りの環境を費用をかけて整備する必要があります。一般的に買い手は劣化が小さく、きれいですぐに住める建物を探しているので、建物の状態が悪い空き家はそのままでは売れません。
③建て替えができない
空き家によっては現在の建築基準法により建て替えができない建物があります。そのような建物を「再建築不可物件」と呼びます。
建築基準法により、幅4m以上の道路に敷地が2m以上設置していないと、建物の建て替えができません。そのため地震や災害などにより再建築不可物件の建物が崩壊してしまうと、新たに建物を建設できないのです。
古い空き家の建て替えができないと、長く住むにはリスクとなるので売るのがより難しくなります。所有する土地が再建築不可物件かどうか、一度確認しておきましょう。
空き家を処分するための方法10選
空き家を所有しているとさまざまなデメリットがあるので、できるだけ早く処分したい人が多いでしょう。ここでは売れない空き家を処分するための方法を紹介します。早めに空き家を手放すために、現在の売り方とは違う方法での処分を検討してみてください。
①価格を見直す
空家が売れない場合、まずは売り出し価格を見直してみる必要があるでしょう。相場よりも価格が高過ぎると買い手は現れにくいので、その場合は値下げを検討してみてください。ただし一度値下げするとその後は値上げが難しくなるので、値下げする際は不動産会社と話し合いながら慎重に決めることをおすすめします。
②隣人に声をかける
隣人に声をかけてみることで、売れなかった空き家が売れることがあります。隣接する土地を所有することで敷地面積が広がり、土地活用の幅が広がるなどの利点が生まれます。
知らない人に隣の土地を購入されるよりも、自分で所有した方が安心ということもあるかもしれません。信頼できる隣人であれば、一度声をかけてみるのも良いでしょう。
③空き家に必要最低限のリフォームをする
建物や設備の劣化が激しいと売却しにくく売れ残りがちですが、リフォームすることで売却につながるかもしれません。ハウスクリーニング、外壁や屋根の修理、床の張り替え、水回りの修繕などに費用をかけておくと、買い手に好印象を与えるので売却につながる可能性が高まります。
リフォームしても必ず売れるわけではないため、必要なところだけに費用を使うのがポイントです。どの部分をリフォームしたら売却につながるのか、不動産会社に相談しながら進めましょう。
④別の不動産会社に変更する
空家が売れない場合、不動産会社を変えることも検討してみましょう。リフォーム工事もできる工務店系や古民家専門の不動産会社がおすすめです。
工務店系の不動産会社には、自分で家をリフォームしたい人が集まります。工事費と物件価格をセットで考慮するので、古い家でも予算によっては売却できるかもしれません。古民家専門の不動産会社の場合、古い家を探している人が集まるので売却の可能性が高まります。
⑤更地にする
空き家の状態が悪く売りにくい場合は、建物を取り壊して更地にするのも一つの方法です。更地であれば、注文住宅を建てたい人やマンションを建てたい不動産会社など様々な人の目に留まるので、売却の可能性が上がります。
下記は一軒家の取り壊しの相場の目安です。建物の構造で坪単価が変化するので注意しましょう。
- ・木造:4〜5万円/坪
- ・鉄骨造:5〜7万円/坪
- ・RC(鉄筋コンクリート)造:6〜8万円/坪
一般住宅は30坪程度が多く、取り壊しには木造一戸建てだと120〜150万円程度の費用が必要です。解体費用は立地や築年数などによっても変動するので、詳しい費用については解体業者に見積もりを依頼してください。
⑥不動産会社に空き家を売却する
買取とは、不動産会社へ直接空き家を売却することです。早めに空き家を手放し、現金を得られるのが特徴です。
この場合の不動産会社は、買い取った後に自分たちで建物を取り壊して転売するのが一般的なので、売りにくかったり急いで処分したい空き家に適しています。この場合取り壊し費用や仲介手数料など費用が抑えられますが、その分だけ売却価格が安くなってしまいます。
⑦空き家バンクに登録する
空き家が売れない場合、空き家バンクに登録してみても良いでしょう。空き家バンクは、空き家の売り手と買い手をつなげる自治体が運営する不動産情報サイトです。
空き家バンクには不動産会社が扱っていない物件も掲載されているので、掘り出し物を目当てに物件を探している人もいます。登録しておけば売却の可能性は上がりますが、確実に売れるとはいえません。
⑧空き家を寄付する
空き家の条件が悪くなかなか売れない場合、寄付するという選択肢もあります。固定資産税や管理費を支払い続けるよりも、寄付した方が良いことも。寄付先は自治体や町内会、公益法人などがあります。しかし実際に寄付しようとしても条件が厳しく、難しいことが多いのが現状です。
⑨「相続土地国庫帰属制度」を利用する
「相続土地国庫帰属制度」に申請することで、相続した土地を国に引き取ってもらえるようになりました。
昨今「所有者不明土地」が問題となっています。望まない空き家などを相続したことで、放置される空き家や土地が増えてしまうことが原因の一つです。所有者不明土地が発生するのを防ぎ、土地を管理するため、2023年4月27日に「相続土地国庫帰属法」が定められました。
この制度に申請するには、一定の要件を満たす必要があります。
- ①相続人であること、相続や遺贈によって土地を取得した人であること
- ②建物が残っていると申請できないため、空き家を取り壊して更地にする
- ③承認を受けた場合、土地の管理に必要な10年分の金額を負担する
他にも土壌汚染や崖がないか、所有者について争いがないかなど、いくつもの要件をクリアする必要があります。法務局が審査を行い、土地一筆1万4000円の費用がかかりますが、審査の結果が不承認でも手数料は返還されません。
この制度を利用しようと考えている人は、自分にとって本当に有効な手段かどうか、専門家に相談しながら判断することをおすすめします。
⑩空き家の相続を放棄する
そもそも空き家を相続しないという選択肢もあります。相続放棄とは、亡くなった人の遺産を一切引き継がないことで、相続に関して一切関与できなくなります。
遺産には預貯金などのプラスの財産と、借金や売れない空き家などのマイナスの財産があります。相続するときはプラスとマイナスの遺産の両方がセットです。プラスの財産だけを相続し、マイナスの財産だけを相続放棄することはできません。相続放棄を検討するときは、両方の財産について熟考し、相続するかどうかを決めてください。
また相続放棄するには、親が亡くなるなどで自分が相続人になったと知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所への申請が必要です。相続放棄申述書、戸籍謄本、住民票などの必要書類を家庭裁判所に提出し、「相続放棄申述受理通知」を受け取ることで相続放棄が完了します。
空き家を処分するために確認すべきこと
空き家を処分するために、事前に確認しておくべきことがあります。スムーズに売却に着手するためにしっかりとチェックしておきましょう。
名義変更の完了
2024年4月から相続した不動産の名義変更が義務化されたので、相続した空き家を売るためには必ず名義変更が必要です。名義変更の際には不動産登記を行うので、司法書士に依頼してください。不動産の名義は売り主を明確にするために、必ず確認すべき事項です。
土地の境界の確定
隣地との境界が確定していない場合、境界確定が必ず必要です。境界確定とは、道路や隣地との境界を確定することです。
境界が確定しているかどうかは法務局にて調べられるので、わからない場合は不動産会社に調査を依頼して確認しましょう。境界確定していない場合は専門家に依頼する必要があり、別途費用がかかります。
敷地を巡って隣家とトラブルになることを避けるために、売却前にしっかり境界を確定しておきましょう。
補助金について
自治体によっては、空き家を処分する際に活用できる補助金や助成金を設けていることがあります。空き家の取り壊しを検討している人は、まず自治体に補助金などについて問い合わせてみましょう。あなたが補助金の対象となるかもしれません。
補助金を申請する自治体は、自分の住んでいる自治体ではなく、空き家がある地域の自治体なので注意してください。ここでは2つの自治体の事例を紹介します。
【千葉県千葉市】住宅の除却費補助制度
千葉市では、災害に強いまちづくりのために、条件を満たす住宅除却工事費用の一部を補助してくれる制度があります。条件は以下の通りです。
- ・工事費の23%、上限は20万円
- ・密集住宅市街地では上限は30万円
【埼玉県川口市】川口市空家除却補助金
川口市では、条件を満たす空き家の解体、除却の工事費用の一部を補助してくれる制度があります。下記のいずれか低い方の額が補助されます。
(1)補助対象工事の費用のうち、5分の4に相当する額
(2)床面積1平方メートルにつき2万円の額
- ・上限は100万円、千円未満は切り捨て
- ・条件によっては上限50万円、千円未満は切り捨て
空き家を所有するリスクと売れない理由を把握し、できるだけ早めの処分を目指そう
売れない空き家を放置すると、金銭的・身体的負担だけでなく、近隣とのトラブルに発展するリスクがあります。空き家を売るために焦って間違った方法を選んでしまえば、結局は売れない状態が続き、負担がかかり続けてしまいます。
所有する空き家を早めに処分するために、空き家の状態に応じた正しい方法で対応していきましょう。
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1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。