不動産の現状渡しとは、現状のまま物件を引き渡すことです。売主にとっては補修などせず引き渡せる利点があり、買主としても購入価格を抑えられるメリットがありますが、その一方でトラブルに発展するリスクもあり注意が必要です。ここでは、現状渡しでの売却時のポイントやトラブル防止策について詳しく解説します。
目次
不動産の現状渡し(現況渡し)とは
不動産の現状渡しとは、補修など行わず現状のまま物件を引き渡すことです。現状渡しでも告知義務があるのがポイントです。以下で詳しく説明します。
現状渡しとは現状のまま物件を引き渡すこと
現状渡しとは、売主がリフォームや補修を施さず、そのままの状態で買主に物件を引き渡すことです。
例えば、築年数が古く設備に不具合がある住宅も、現状渡しで物件を売却すればその状態のまま引き渡せます。買主は、購入後に修理やリフォームを行うのが一般的です。
現状渡しは、「現況渡し」「現状有姿」とも呼ばれます。日本の中古住宅取引において、現状渡しで取引が行われるケースはおよそ半数以上です。
現状渡しでも告知義務がある
現状渡しの取引では、通常の不動産取引同様に、売主に告知義務が課されます。
告知義務とは、売主が買主に対し、物件の情報を事前に伝える義務のことです。不動産の欠陥・不具合や修繕履歴、補修箇所などは、必ず買主に伝える責任があります。
不具合を告知した上での現状渡しであれば問題ありませんが、告知しなかった場合、契約違反として契約不適合責任を追及される可能性があります。詳しくは「現状渡しのデメリット」で説明します。
不動産の現状渡しによる売主・買主のメリット
不動産の現状渡しは、売主・買主双方にメリットがあります。売主のメリットの「リフォームや補修をせずに売却できる」「すぐに売却活動ができる」、買主のメリットの「物件の購入価格を抑えられる」について詳しく説明します。
売主のメリット①リフォームや補修をせずに売却できる
現状渡しとして引き渡せば、リフォームや補修をせずに売却できます。そのため、手入れにかかる費用や手間を抑えられます。
特に、築年数が古い物件は資産価値が低いため、売却価格よりも補修費の方が高くつくことが多いものです。そのため、補修せず引き渡しできるのは大きなメリットと言えます。
売主のメリット②すぐに売却活動ができる
現状渡しは手入れせずに売却できるため、すぐに売却活動ができるのがメリットです。補修やリフォームにかかる期間を省き、なるべく早く売りたい人に適した売却方法と言えるでしょう。
また、売却時になるべく手間をかけたくない人にもおすすめです。
買主のメリット①物件の購入価格を抑えられる
現状渡しの物件は相場よりも安く売却されるため、なるべく安く購入したい買主にニーズがあります。
特に、リフォームやリノベーションをするために中古物件を探している人は、購入後の手入れを前提に考えているため、不具合があること自体は問題ではありません。抑えた購入費用をリフォーム費用に回せるため、高い需要があります。
不動産の現状渡しによる売主・買主のデメリット
不動産の現状渡しには、デメリットもあります。売主のデメリットの「契約不適合責任を問われる可能性がある」「どこまで告知すべきかの判断が難しい」、買主のデメリットの「手間とコストがかかる」について詳しく説明します。
売主のデメリット①契約不適合責任を問われる可能性がある
契約書に記載のない問題点が見つかると、契約不適合責任を問われる可能性があります。
契約不適合責任とは、引き渡された不動産が契約内容と異なる場合に、売主が負う責任のことです。事前に告知していない欠陥や不具合が見つかれば、売主は買主に以下のような責任を請求される可能性があるのです。
追完請求 | 修理の請求ができること(売主に落ち度がない場合も請求可能) |
代金減額請求 | 追完請求をしても対応しない場合に購入費用を減額請求できること |
催告解除 | 追完請求をしても対応しない場合に契約解除できること |
無催告解除 | 追完請求をしても対応しない場合に催告なしでも契約解除できること |
損害賠償 | 売主に落ち度がある場合のみ、買主の不利益の代償を払わせられること |
売主のデメリット②どこまで告知すべきかの判断が難しい
現状渡しの場合、どこまでが伝えなければならない範囲なのか、判断が難しいのも事実です。前述のとおり問題点はすべて伝える必要がありますが、どこまでが現状渡しとしての許容範囲なのかがわかりづらいためです。
伝えるべき範囲を見誤ると、告知義務に不備があったとしてトラブルになることもあるので注意しましょう。
買主のデメリット①手間とコストがかかる
現状渡しでの購入は、購入後の修繕やリフォームを行うことが前提となるため、手間と費用がかかります。
また、告知されていない不備が見つかった場合は、売主への確認作業・責任の請求対応が発生するなど、余計な労力がかかります。買主側は、購入前に十二分にチェックを行う、不動産会社に契約関係のアドバイスをもらうなど、リスクを低減することが肝要です。
不動産を現状渡しする際に注意するポイント
現状渡しでの不動産売買では、注意するポイントが3つあります。「現状渡しの範囲と条件を明確にする」「不具合発見時の対応方法を取り決めておく」「残置物の取り扱いを明確にする」について詳しく説明します。
現状渡しの範囲と条件を明確にする
売主と買主の間で「どこまで現状のまま引き渡すのか」を具体的にし、合意しておくことが重要です。
例えば、建物の内装・設備の状態や外構部分の劣化など、現状のまま引き渡される範囲を詳しく決めておけば、引き渡し後に「思っていた状態と違った」といったトラブルを防げます。必要に応じて、仲介業者を交えて条件を確認し、合意内容を契約書に明記しておくと安心です。
不具合発見時の対応方法を取り決めておく
引き渡し後に不具合が見つかった場合の対応方法について、あらかじめ取り決めておくのがおすすめです。
契約不適合責任は任意規定のため、当事者の合意(特約)取り決めをすれば、適用範囲や適用期限なども自由に設定できます。例えば、契約不適合責任の期限は不具合発覚後1年以内が原則ですが、双方の合意があれば、引き渡し後3ヵ月以内などに短縮することもできるのです。
このように、引き渡し後に不具合があった場合の対応についても、売主買主双方が納得のいく形で取り決めておけば、いざとなった時もスムーズに対応し、進められるでしょう。
残置物の取り扱いを明確にする
ゴミや不用品などの残置物の取り扱いも、明確化しておくのがよいでしょう。残置物は売主側で処分するのが一般的ですが、「残置物を売却対象に含める」「残置物の撤去を買主側で行う」など特約で取り決めることもできます。
例えばエアコンは、一般的には残留物として撤去対象とされますが、売却対象に含めることを特約に記載すれば買主が撤去する必要はありません。トラブルを防ぐために、残置物の扱いを売主・買主間で話し合い、明らかにしておくとよいでしょう。
現状渡しで売却する場合のトラブル防止策
現状渡しで売却する場合、トラブル防止策として「インスペクションをする」「買取業者に売却をする」が有効です。以下で詳しく説明します。
インスペクション(住宅診断)をする
インスペクションとは、建築士による住宅診断のことです。物件の状態を客観的に把握できるため、契約不適合責任の追求を防ぐことにつながります。
シロアリ被害など外から見るだけではわからないような不具合も、告知をしなければ契約不適合責任に問われてしまいます。しかし、事前にインスペクションを行えば、目に見えない劣化部分や修繕が必要な箇所を事前に告知できるので、安心して取引ができるのです。
買取業者に売却をする
契約不適合責任請求のリスクや、インスペクションを行う手間を減らしたい場合、買取業者に直接売却をするのもひとつです。
仲介で売却する場合、不具合などの告知を行わないと契約不適合責任に問われますが、買取業者に直接売却した場合は一切契約不適合責任を負わないという特約を行って免責されます。特に、事件・事故のあった物件や空き家は、売却後に心理的・環境的なトラブルが発覚することもあるため、買取業者に売却し、後の対応も任せたほうが安全と言えるでしょう。
また、家電などの不用品の処分もしてもらえるため、売主側で残置物の撤去が不要なこともメリットのひとつです。仲介よりも売却金額は下がりますが、インスペクションをする時間がない人やトラブルを避けたい人におすすめです。
不動産の現状渡しするなら買取業者への売却が安心
不動産の現状渡しとは、リフォームや補修を施さず、そのままの状態で物件を引き渡すことです。売主にとっては、手間や出費を抑えられるなどのメリットがありますが、不具合の告知が漏れていた場合は契約不適合責任を問われる可能性があります。
売却時に、現状渡しの内容を具体的に取り決めておくなど、トラブルに発展しないよう注意しましょう。また、買取業者へ売却すると契約不適合責任が免責されるため、リスクを回避したい場合は検討するのがおすすめです。
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1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。