任意売却と競売の違いは、手続き方法のほか、売却価格や返済方法、情報公開の有無などが挙げられます。任意売却は、競売と比べると、売却価格面や条件面でメリットが多いと言えます。この記事では、それぞれの特徴や、メリット・デメリットについて詳しく説明します。
目次
任意売却と競売の違いを解説
競売または任意売却とは、ローン残債の返済に充てるため、不動産を処分する手続きのことです。それぞれ、手続き方法や売却価格、返済方法などに違いがあります。以下で詳しく見ていきましょう。
任意売却とはどんなもの?
任意売却とは、金融機関など債権者の同意を得て、不動産を売却する手続きをいいます。債権者に相談し、抵当権の抹消に同意してもらうことで、通常の不動産売却と同様の手続きで不動産を売却できます。
売価 | 相場の8〜10割 |
手続き後の残債額 | 抑えられる |
残債の返済方法 | 分割払いの交渉可能 |
情報公開 | 公開されない |
退去までのスケジュール | 調整可能 |
引越し費用 | 支払い交渉できる |
債務者による交渉 | できる |
競売とはどんなもの?
返済が困難になったローンを回収するため、債権者が裁判所に申し立てを行い、不動産を競売にかけて強制的に売却する手続きをいいます。基本的に債務者の交渉の余地はありません。
売価 | 相場の5〜7割 |
手続き後の残債額 | 多くなりがち |
残債の返済方法 | 分割払いが認められない |
情報公開 | 公開される |
退去までのスケジュール | 調整不可 |
引越し費用 | 自分で捻出 |
債務者による交渉 | できない |
任意売却と競売の違い|任意売却のメリット・デメリット
ここでは、任意売却のメリットとデメリットについて詳しく解説します。
任意売却のメリット4つ
任意売却のメリットは、「相場に近い価格で売却できる」「残債を分割払いできる」「引越し費用を出してもらえる可能性がある」「プライバシーが守られる」の4つです。以下で詳しく説明します。
1.相場に近い価格で売却できる
任意売却は、前述の通り相場の8〜10割での売却が見込めます。なぜなら、通常の不動産売買と同様、一般市場で買い手を探せるからです。不動産が高く売れれば、その分ローンの残債をより多く減らせます。ローン返済に困っている債務者としては、大きなメリットと言えるでしょう。
2.残債を分割で支払える
売却金をローン残債に充てたあとの残債は、分割払いできる可能性があります。
任意売却の場合は、分割和解の契約が結べるためです。また、交渉によっては残債の減額に応じてもらえることもあります。交渉が叶えば、無理のない範囲で返済しながら、生活を立て直していくこともできるのです。
3.交渉次第で引越し費用を出してもらえる
交渉によっては、債権者や買主から引越し費用を出してもらえることもあります。
債務者に金銭的な余裕がないと、転居や引き渡しまでの手続きが滞る恐れがあります。そこで、債務者の事情を汲み、債権者や買主が引越し費用を負担してくれる場合があるのです。
引越し費用の負担が難しい場合でも、物件の引渡時期は調整してもらえるなど、債務者側の事情に合わせて柔軟に対応してもらえる場合もあります。
4.プライバシーが守られる
任意売却は、通常の不動産売買と同じ方法で売却するため、雑誌や新聞などに情報が出回ることはありません。
競売の場合は、競売情報として世間に出てしまうため、ローンを支払えなかった事実が知られてしまいます。その点、任意売却は通常の売却活動を行うため、プライバシーの点で安心と言えるでしょう。
任意売却のデメリット2つ
任意売却のデメリットは、「債権者や所有者全員の同意が必要」「不動産会社の専門知識がなければ不成立になる」の2つです。以下で詳しく説明します。
1.債権者や所有者全員の同意が必要である
任意売却は、債権者や所有者の同意がないと行えません。前述した通り、任意売却するには、債権者が持つ抵当権を抹消する必要があります。それには債権者の同意が必要不可欠です。
また、所有権を共有する人の同意がないと任意売却を進めることはできません。例えば、所有権共有者が元配偶者であるなど、コミュニケーションが難しい関係にある場合、任意売却に同意してもらうのが困難なケースもあります。
2.不動産会社の専門知識がなければ不成立になる
任意売却を依頼した不動産会社に専門知識がなければ、不成立になることもあります。
任意売却は通常の不動産売買と異なり、金融機関など債権者との交渉や、法律の専門知識が必要な手続きです。適切な対応ができない不動産会社を選んでしまうと、金融機関との交渉が不成立に終わったり、対応に不備があったりと、不利益を被る可能性もあります。
事前にきちんと下調べをして、任意売却の実績が豊富な不動産会社に依頼すると良いでしょう。
任意売却と競売の違い|競売のメリット・デメリット
ここでは、競売のメリットとデメリットについて詳しく解説します。
競売のメリット2つ
競売のメリットは、「債務者が売却手続きをしなくて良い」「引越しまでの期間が長い」の2つです。以下で詳しく説明します。
1.債務者が売却手続きをしなくて良い
売却手続きは裁判所が進めるため、責務者の手間はかかりません。
ローン滞納が続くと、債権者が裁判所に申し立てを行い、裁判所が不動産を競売にかける手続きをとります。そのため、基本的に債務者の交渉の余地はなく、何もしなくても手続きが進んでいくのです。
2.引越しまでの期間が長い
競売は、任意売却と比べると、引越しまでの期間に余裕があります。競売は、ローン滞納してから競売にかけられ、明け渡しとなるまでに、だいたい1年から1年半程度かかるためです。
任意売却と比べると長い期間家に住めるため、余裕を持って引越しできるのがメリットです。
競売のデメリット3つ
競売のデメリットは、「売却価格が相場よりも安くなる」「雑誌や新聞に掲載される」「立ち退き日を交渉できない」の3つです。以下で詳しく解説します。
1.売却価格が相場よりも安くなる
競売での売却は、市場の相場よりも安くなるのがデメリットです。一般的に、相場の5〜7割程度と言われており、任意売却と比べると大きな差があります。
売却価格が安くなるということは、残債が多く残る可能性があるということです。任意売却と違い、分割払いや残債の減額の交渉もできないため、以降の返済がより苦しいものになってしまうのです。
2.雑誌や新聞に掲載される
競売では、雑誌や新聞などに競売情報が掲載されます。さらに、不動産鑑定士や裁判所の執行官による訪問調査、不動産会社による近所への聞き込みなどが行われるため、近隣の人々に住宅ローンが返済できなかったことを知られてしまいます。
近場での引越しでは人目が気になり、遠方への引越しを検討せざるを得ない状況になりかねないのです。
3.立ち退き日を交渉できない
競売では、催告された日時に強制執行されるため、立ち退き日の交渉はできません。強制執行は拒否できないので、計画的に引越し準備を進めることが必要です。
任意売却と競売の違いを理解して早めに対処しよう
任意売却と競売の違いは、通常の不動産売買と同じ手続きで行うか、裁判所の手続で行うかにあります。売却額や条件面についても大きな違いがあるため、より高く売却でき、残債の分割払いや退去日なども交渉可能な任意売却のほうがメリットが多いと言えます。
まずは任意売却に詳しい不動産屋を調べ、相談してみてはいかがでしょうか。
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1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。